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お話しましょ


 自分でも場違いだと思った。
 校内でも有名な遊び人である自分が図書館にいるだなんて。
 でも仕方ない。本をこよなく愛する彼は放課後いつもここに来て読書を楽しんでいるのだから。

「それですっげえそいつ慌てちゃってね〜。みんな茶化したら今度は顔真っ赤にして怒っちゃってさ〜。でも状況思い出したら今度は青くなっててね…………ねぇ聞いてる?」

 そう言って猫のように笑って倉田は相手を見つめるのだが。

「…………」

 相手、庄司は全く気にも留めず、目の前の読書に集中している。

「……ねぇってば」

 倉田が庄司の読んでいた本を取り上げる強攻策に出た。

 ここで初めて庄司が倉田の方を見る。
 眼鏡の奥にある瞳は年不相応に静かで、倉田は思わず見入ってしまう。

 庄司は倉田の行いを咎めるでもなく、全くの無関心を持って手を差し出した。

「返してくれ」

「イヤ」

 庄司が僅かに首を傾げる。
 怒っているのではない、不思議がっているのだ。

「何故嫌なんだ」

「だって、庄司が俺の話を聞いてくれないから」

 まるで子どものような倉田の言い分。しかしそれで納得したのか、庄司は頷くと鞄を持って立ち上がった。
 スタスタ扉に向かう庄司に倉田も慌てて着いていく。

「ごめん、怒った?」

「いや、あそこは他の利用者に迷惑が掛かる。話をするなら帰りながらで良いだろ」

 庄司は無表情で至極当然といったように言った。
 倉田は目を丸くして、でも自分の言い分を聞いてくれたことが嬉しくて、また猫のように笑った。


 この生真面目鉄面皮天然君に今日も自分は敵わない。

【おわり】


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