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「好きです。俺と付き合って下さい!」

 そう言ったあいつは顔を真っ赤に染めて今にもぶっ倒れそうになっていた。
 1つ下の後輩で、超が付くほどの熱血馬鹿。しかも俺と同じ男ときている。
 俺は言われた意味を飲み込むのに大変な苦労を要した。緊張のためか胸の動悸が煩くてしょうがない。
 あいつは今度は顔色を青くして、瞳は不安気に揺れていた。
 ああ、こんな顔をさせてしまったのが俺のせいかと思うと、何だか申し訳なく、それでいて変な高揚感があった。
 その矛盾を自覚して思わず顔を顰める。そして緩慢な動作で首を何とか動かす。
 体が自分の言うことを聞かないのは、俺の心の動揺を表しているのだろう。

「うおぉぉぉぉぉ! やぁったぁぁぁぁぁ!!」

 いきなりあいつが雄叫びを上げた。

「うるせぇっ!」

 体全体で喜びを表現しているそいつに何だか気恥ずかしくなって、俺は思わずそいつの頭を叩いた。

「お前、ここがどこだか考えろよ……」

 途端に静かになってしまったそいつに、また罪悪感が生まれる。
 さっきから自分でも戸惑うくらい、心に様々な感情が生まれる。
 そしてさっきからずっと息苦しい。

「あの、陸……」

「お前ももう部活行けよ。俺も写真撮らなきゃなんねぇから」

 あいつに名前を呼ばれそうになってとっさに遮った。
 何だか酷く胸が苦しくなったから。頭の奥もじわっと痺れたように思う。自分はどうかしてしまったのか。

「あ、はい……」

 あいつは俺の言葉に素直に従って後ろを向いて歩いていく。
 それをちょっと寂しく感じた自分が再び分からなくなって、俺は乱暴にシャッターを押す。

 そんな俺に気付いたわけでもないだろうに、あいつはまた俺に話し掛けてきた。

「先輩、あの……。家に帰ったらメールしますね」

「……ああ」

 声は震えていなかっただろうか。
 ただ一言を発するのがこんなに大変なことだったとは思わなかった。

「先輩」

「……まだ何かあんのか?」

 そしていらない言葉はすんなり出てしまう。俺の馬鹿野郎と、心の中で自分を叱咤する。
 意を決して告白してくれたのだろうに、それにこんな態度を取られてはたまらないだろう。
 俺だったら堪えられない、そう思うのに、自分は正反対のことをしてしまうのだ。

 これでは、早々に愛想を尽かされると、そう思ったのに。

「好きです、俺先輩のこと大切にしますから!」

 あいつはよく通る澄んだ声音で、そうたまらないことを言ってくれる。
 今あいつの顔なんて見れるわけがない。
 きっとあの人懐っこい笑顔を浮かべているだろうから。

 扉が閉まる音を背後に聞いて、俺はやっと詰めていた息を吐いた。息苦しくてしょうがない。頭も痺れたままだ。

「本当に、俺も馬鹿野郎だなぁ……」

 どうしようもないくらい、嬉しかったくせに素直になれなくて。
 心をこんなに揺さぶられるなんて。

 顔が火照ってしょうがない。
 夕陽が赤く世界を染める中、自分もまた酷く赤くてしょうがないのだろうなと思った。


【おわり】

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