理事長 2人を無事正門まで送り届けた車は、元来た道を引き返し山の中に消えた。 少年は目の前にそびえ立つ城のような校舎を、青銅色の門の間からじーっと見つめた。 「白亜の城ってこんな感じだろうな」 「そうか? 普通だろ」 「なにそのお坊っちゃん発言」 「え、いや、坊ちゃんとか全然そんなんじゃないぞ!!」 分かりやすく動揺する春親。けれど少年はあまり興味がなかったのでするーっと流した。 「さて。これどうやって入るんだ?」 「……ええと、確かここにベルが」 門の横の柱についた白いボタンを春親がぽちっと押すと、上にある監視カメラが動いてレンズの焦点を合わせる音がする。どうやら2人の顔を認識しているようだ。 ギギっと重苦しい音を立てて正門が開き出す。便利なものだなと少年は関心した。 「山奥だけど、セキュリティーはそれなりらしいぞ」 「そうなんだー。ってことは、やっぱり遊びには行けないか……」 がくりと肩を落とした少年を春親は不思議そうに見つめた。 城と見紛うほど校舎は大きすぎて、これでは迷子になるのではと少年は危惧する。だが少年の不安は杞憂に終わる。門から入ってすぐの場所に敷地内の地図が描かれた看板があったのだ。 「えーと、あ、あったあった」 少年は伊達メガネをズラして目当ての建物を見つけた。そして隣で同じように案内板を見つめる春親に声を掛ける。 「俺第1校舎に用があるからここで別れよう」 「え?」 春親は小首を傾げて少年に顔を向ける。少年はへらへら笑って両手を合わせた。 「ホント、乗せてくれて助かった。また会ったらよろしくー」 「俺も」 「ん?」 「俺も第1棟に用があるんだ」 理事長に会いに……。その言葉を聞いて、少年はきょとんと目を瞬かせる。そして、なんだか嫌な予感がすると、半眼を作った。 ◇ 理事長に用事があったのは少年も同じだ。結局春親と一緒に、第1棟にある理事長室を訪れた。数回のノックの後、中から扉が開かれる。現れたのは中肉中背の女だった。歳は30代後半くらいだろうか。栗色の髪を結い上げ、化粧をばっちり決め、白いスーツに身を包む。仕事ができそうな女性だが、この若さで理事長を努めているのかと、彼女と初対面の者はみんなそう思うだろう。 「何の用ですか」 「あ、ええとー」 「俺達今度から編入することになった西園寺と大岡です!」 喋るのが遅い少年に代わり、春親が元気良く答える。相手は探るような目でこちらを見ていたが、すぐに体を退いて中に入れてくれた。 [前へ][次へ] [戻る] |