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虜(仮)
マリア姫
 小鳥がさえずり、静まりかえった城内に朝の知らせを告げてくる。すると城内で働く侍女たちは次々と目覚めはじめ、忙しく朝の準備に取り掛かる。城内は侍女たちの慌ただしい足音で活気づいていく。
 そして今日も、ひとりの侍女がアンティーク調のつくりの扉の前にきて、コンコンと遠慮がちに扉を叩いた。

「姫。マリア姫、おはようございます。朝の身支度のお手伝いに参りました。失礼してよろしいでしょうか?」

「ええ。どうぞ。」

 中から可愛らしい、少し高めの声が聞こえてきた。侍女は中の人物の許可を得たのを確認すると、失礼しますと言って扉を開けた。中に入ると、純白のネグリジェに身を包み、肩掛けをはおった少女が窓際に立って、気持ち良さそうに外を眺めていた。少女のウェーブががった金色の髪が、朝日に照らされてキラキラと輝いている。侍女はそんな彼女を天使のようだと毎度ながら思う。

「マリア姫、ささ、本日のドレスはいかが致しましょう。姫はどのお色もお似合いになられますからね。迷ってしまいますわ。」

 侍女が備え付けのクローゼットを広げて、どのドレスにしようかと迷っている。しばらくあれこれと悩んでいると、やっと決まったようで、一着のドレスをマリアの前に差し出した。

「こちらのドレスはいかがでしょう。真っ赤なスカーレットのドレスです。マリア姫ももう16歳。立派な女性になられましたもの。このような艶めかしいお色のものをお召しになられるとなお一層マリア姫のお美しさをひきたてること間違いなしですわ。」

 自信満々に答える侍女に対し、マリアは自信なさげに答えた。

「そ…そんな。私にはその色は似合わないわ。な…なんていうか大人っぽすぎて、私にはきっと似合わない…。」

「まあ!そんなことありませんわ。姫はとてもお美しい姫君になられましたもの。城中の者がそう言っております。どうかもっと自信をお持ちになって。」

「でも…やっぱりその色は無理。もっと…淡い色のドレスがいいわ。」

 そう言ってマリアは水色の淡いドレスを選んだ。侍女は、目鼻立ちがくっきりとしていて、わりと大人びた顔立ちのマリア姫には、確かに何を着せても似合うが、もっと大胆な色のほうが似合うと思っていた。しかし彼女は周りの姫君とは違い、侍女など鼻で使うような高慢な姫君とはわけが違って、繊細で自信のない姫君であった。外見も内面も、マリア様は言うことなくお美しいのに…。ただもっとご自分に自信をもっていただければ…。侍女はガッカリしながらも、彼女が選んだ水色のドレスを着せるのを手伝った。


あきゅろす。
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