ぬくもり(柳)



柳が中学に上がる前の出来事だ。
長期休暇を利用して、母方の実家に帰省するのが毎年の決まり事だった。その年も同じく一週間ほど泊まる予定で帰省した。孫の成長を目の当たりにして喜ぶ祖父母にひとしきり構われて、柳は一人縁側で過ごすことにした。
ものすごく田舎というわけではないが、普段の喧騒からは程遠い、静かでゆったりと流れるこの雰囲気が昔から好ましかった。
祖父の愛蔵書の中から何冊か貸してもらい、冷えた麦茶を傍らに置いて読書に没頭する。彼の決まったスタイルだ。途中、買い物に誘われた気がしたが当然断った。そうして時間は流れてーーふと、気が付いた。
胡座をかいた膝の上に『何か』が乗っている。
目には見えない。けれど確かに乗っている。ふかふかとした毛並みの感触と、生き物特有の温もりを感じるのだ。
試しに手を伸ばして触れようとするが、手のひらには何の感触も手応えもない。ズボンから剥き出しの膝にだけ感じる。
柳はなんとなく『子猫』だと思った。ちょうど最近遊びに行った友達の家に生まれた子猫が、確かこのくらいの大きさだったから。
季節は夏だったが、その温もりは決して不快なものではなかった。「気がすんだら退くだろう」と、柳は別段気にすることもなく、再び文字の世界に没頭した。

「蓮二、晩御飯だよ」

父親の呼び掛けにはっと我に返ったとき、膝の温もりは消えていた。念のため、夕飯の席で祖父母にこの家で猫は飼っていたか訊いてみたが、猫嫌いの祖母に嫌な顔をされただけだった。

それから帰るまでの一週間、柳は縁側で日が暮れるまで膝に『子猫』を乗せて動かなかった、という。





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あきゅろす。
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