揺れるもの(丸井)


家に何かいるかもしれない、と丸井は打ち明けた。
つい最近引っ越したばかりの丸井家は五人家族で、年の離れた二人の弟の面倒を見るのは長男の宿命といってもいいかもしれない。その三男がおかしなことを言うのだ。

ある日、リビングで課題を片付けつつ弟たちの子守をしていると、うるさいくらいに騒いでいた三男の声が急に聞こえなくなった。不審に思って顔を上げると、次男はテレビのアニメ放送に夢中になっている。三男は、と首を巡らすと、玩具を片手に一点を見つめたまま立ち尽くしていた。視線の先を追えば、リビングと続き間になっている五畳ほどの和室だ。

「おい、どうした」
「兄ちゃん、ぶらぶらしてる」

まっすぐに和室を指差して言う。「ぶらぶらぁ?」弟の側に行って和室を覗いてみるが、部屋のなかに天井からつり下がっているようなものは何もない。
五歳になったとはいえ、まだまだ幼い弟の言うことだ。その時はさして気にしなかったという。
しかし、それから弟は何度も「ぶらぶら」という言葉を発しては和室をじっと見つめ続けた。自分より年が近い次男に「ぶらぶら」の正体を聞いても「知らない」という。「やめろ」と言っても聞かない。
初めてそれを気味が悪いものと感じたのは、弟の目の動きを見た時だ。顔は少しも動かさないのに、黒目だけが左右に細かく動いている。何かの動きを追っているのは明らかだった。
「ぶらぶら」は小さく左右に動いているもの。高さは部屋の真ん中あたり。現れるのは昼から夕方の間だけ。三十分もすると消える。三男以外には見えない。

「この前さ、夕方のドラマの再放送で首吊りのシーンがあって、たまたまそれ見た弟が『あっ、ぶらぶら!兄ちゃんぶらぶらしてるよ!』ってデカい声で言うんだよ。和室とテレビを交互に指差して。ぞっとしたぜ」

「ぶらぶら」は今も丸井家の和室で揺れているらしい。





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