2
「高梨」
「2√3」
「…チッ」
チッてなに先生。
流石です高梨様!なんて小言で言ってくれたチワワちゃんに笑顔を返して席につく。色んな所から悲鳴とかガタンとか痛そうな音がしたけど、気にしなくていいんですよ、って昔チズに教えてもらったのでスルーした。
色々あって滑り込みセーフだった俺は幸いにも本鈴には間に合った。間に合ったけど、どうやらホスト教師の機嫌は損ねてしまったらしい。不機嫌に寄った眉が、顔が整ってるだけに殊更怖い。いつもは頬を染めて見守るチワワちゃんズも今日は少し青ざめて…いや、なんかいつもよりうっとりしてるような…いやいや気のせいだ。きっと、うん…うん、プチカルチャーショック。
高らかにチョークの音を響かせて達筆な字を書き連ねていく後ろ姿は、確かに男の俺から見たって文句なしにかっこいいのだが、
(性格っていうか、性癖がねえ…)
泣く子も黙るドS野郎とはこのことだ。ジーザス!
「おい、高梨」
「?」
「あとで数準集合」
げ、と顔を歪めてから失敗したと思った時には遅かった。目の前にはそれはそれは楽しそうに笑うホスト教師の姿が。
「…なんで」
「全部声に出してんだよ、馬鹿が。あと俺はホスト教師じゃねえ、白山多岐だ。」
全部声に出てたらしいですわよ奥さんあらあらいやだわダーリンの前でやってたらどうしようかしら羞恥で死ねる。
かなり衝撃を受けた俺はちょっと放心。その間ホスト教師が色々言ってた気がするけどぶっちゃけ俺はそれどころじゃなかった。
「おい、高梨?…チッ。またトリップしやがって」
もちろんホスト教師がそんなことをぼやいてクラスメイトから優しい目を向けられていたなんて、俺は知らない。
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