そして夢は泡沫のごとく7
◆
「それは……本当、ですか。レオさん……」
レオの口から語られた真実に、ディーナはその声を震わせた。
他の仲間たちも、口に出すことはせずとも表情を強ばらせ、じっとレオを見つめていた。
レオの口から語られた『真実』はあまりに突拍子もなくて、まるで夢物語を聞かされているようだった。
直ぐには受け止められない。理解しようと試みても、感情がそれを拒んだ。
予感はあった。それでも、認めたくなかった。
ディーナは一縷の望みを込めて、すがるようにレオを見た。
「今、話したとおりだよ。ディルは神への復讐のために、ある男が作りだした。人の形をした兵器だ」
それでも、突きつけられたのは変わりようのない現実。
「……どうして、そんなことを言うんですか。ディルは人間です。わたしはずっと側で、側で見てきたもの……」
「残酷だけど、これは事実なの。認めたくないその気持ちは痛いほど分かるわ」
表情を歪ませるメルベル。
「ちょっと待ってくださいよ、レオさん」
口を開いたのはジャルだった。
「じゃああんたはずっと知ってたってことかよ? 今の話、知ってて俺らに黙ってたのか?」
「……ジャルの言うとおりだよ。すまない」
「なんでだよ。何で言ってくれなかったんだ」
ジャルの瞳が鋭くレオを睨む。
彼の怒りは当然のことだ。仲間の大切な秘密を知っていて、それを隠していたのだから。しかし、レオは無情ともとれる言葉を返す。
「知っていたら、今と同じようにディルと接することができたかい?」
「あったりまえだろうが!」
だん、ジャルの激しい情動が診察室のタイルを踏みならす。
どうしてそんなことを問われなれけばならないのだ。ジャルは沸点に達した憤りを全身で露わにする。
「そう思えることは、お前の美点だよ。だけど、誰もがお前のみたいに簡単に受け入れられるわけじゃない」
深く被った帽子が、レオの表情に更に深い影を落とした。
ジャルは気づく。
自分以外の仲間たちが、惑い、躊躇うように身体を強ばらせていたことに。
「正直、まだレオさんの話を受け入れきれていない。あまりにも突拍子もなくて、実感がわかない……」
ダズは眼鏡の腹に指を添えてかけ直すと、胸のまえで腕を組んだ。その指はかすかに震えており、動揺を物語る。
「なんでだよ……」
ぽそり、ジャルは力なくつぶやいた。
「……それが本当だとして、どうして今。私たちに話したんですか?」
自身もその瞳を惑わせながらも、リイラはまっすぐに問いかけた。
「確かに、今まで知らされずにいたことに対して何も思わないわけでは在りません。でも、なぜ教えてくれなかったのか、知っていたらどうだったのかは、今問題にするべきことではないはずです。私たちにそれを隠していたのは、それだけの理由があったからなのでしょう。だからこそ、ずっと隠されていた事実を今明かしたことにも理由があるはずです。……それは、真実を語らざるを得ない状況に私たちが置かれているから。そういうことではないのですか?」
「その通りだよ」
レオは苦笑する。
「ディルのことを知っておきながら、今まで黙っていたことは本当に申し訳なかった。けれどそれは、ディルが人として君たちと在れる、そんな希望を願っていたからだ」
「もちろんただ徒に、根拠のない希望だけで決めたわけではないの。本来なら、ディルにあそこまでの感情が生まれることはあり得ないことだったわ。でも、ディーナや皆といることで、彼は少しずつ感情を学び、いつしか人間に近い心を持つようになったの。だから、私たちはそれを見守ろうとしたの」
メルベルの言葉に、レオは静かにうなずいた。
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