エスケイプ アンド ハイド2
目元を覆う包帯は彼の視界を完全に封じているというのに、百の眼を持つかのように一切の隙がない。さらに恐るべきは、先の一撃が一切の武器を介さず、己の拳ひとつで生み出されたという事実。
間違いなく彼は強い。おそらくその実力はライト以上。こちらとの力の差は歴然だ。
「へえ、今のギルの一撃を食らってまだ立てるんだ。さすがは兵器といったところだけど。あんまり抵抗しない方がいいよ。その方が、楽に死ねる」
ライトは袖口から再びナイフを取り出す。
彼らは本気で自分を殺すつもりらしい。どうにか状況を打開する策を探すも、圧倒的な力を前に状況は絶望的だ。
「……どうして、戦う必要がある」
「どうして? 答えるまでもないだろう」
翠玉の隻眼が放つ光に、ぞっと背筋が凍る。
「俺たちのハンターの存在意義。それは人に害をなす存在を狩ること」
ライトの瞳は冷酷なまでに陰惨と、目の前の害獣を映していた。そこには何の感情も滲んではいない、狩るべき獲物を前にただ淡々と得物を構える狩人の眼。
そして理解する。彼等にとって、自分こそが狩り殺るべき害悪なのだと。
「俺たちはお前を世界の害とみなし、排除する。それだけだ」
ライトの言葉を否定することはディルには出来ない。
かすかに上下したその喉を穿つ刃が放たれる。
それは思いも寄らぬ方向から飛んできた一撃であった。視界がとらえたその刃の形には見覚えがあった。ライトのナイフとはちがう。切断つことに長けた無駄のない形状。
飛んできたメスをすんでで避けると、突き刺さったその場から氷の棘が隆起した。かすかに頬を掠めた冷たい感触が、一滴の血を地面へと滴らせる。
医療用メスと氷の攻撃。それを行えるものはディルの知る限りただ一人だ。この場において、味方であるはずの人物。ディルは彼の名をつぶやいた。
「ダズ……?」
先ほどまでともに戦っていたはずのダズからの突然の攻撃に、ディルの声は僅かに同様をはらむ。
立ち尽くしたままのダズは、ディルの声に反応を示すことはしなかった。ただ、こちらを見据えるうつろな瞳には確かな敵意が宿っていた。
どうして彼が、今、自分に刃を向けるのか。
その答えなどわかりきっている。けれど、理解が追いつかない。
――俺はお前を信用していない。
列車でのダズの言葉が思い出された。
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