解き明かす、光3
「信用してほしいって態度かよ……」
ぎろりと睨みをつける代わりに、それ以上の不満はひとまず呑み込むことにする。
「で、ジオさん。この子は一体?」
きょとんとした表情で切り出したのはソルアだった。
「彼はディル。ハンターの兵器だ。上には内緒で俺たちで身柄を預かることになった」
「ハンター!? 兵器!?」
ルーラが声を荒らげる。
「それ、本当ですか? 今、上の一部で騒がれてる奴じゃないですか……! 先日の災害の一因だって……しかも、内緒で預かる!? 何言ってるんですか?」
「声が大きい。まあ、いろいろあるんだよ。上にばれたら俺たちだけじゃなくてループ大佐の首も飛びかねないから、気を付けてね」
「ループ大佐の!? いったいどういうことですか……ああもう、面倒ごとだ! これ絶対面倒ごとだ!」
頭を抱えて狼狽するルーラ。
一方のソルアはけろっとして、
「落ち着きなさいよルーラ。それでジオさん。彼を匿う代わりに、好き放題解剖していいって事ですか?」
「大体あってるけど。やりずぎちゃ駄目だよ」
「やったー!」
「おい待て、調べてもいいと言ったが、解剖していいとは言っていない」
当事者を差し置いて盛り上がっている研究者たちに釘を差す。
「どうせすぐ直るんだから問題ないでしょう。それに、ばらしてみないとわからないこともある。多少は我慢して。科学の発展のために犠牲はつきものなんだから」
だが、何を言っても無駄なようだ。スイッチの入った科学者どもを止めることなどもう出来ないのだろう。諦めとともに吐き出されたため息すら耳に届いているかわからない。
「兵器って、本当ですか? 俺たちとほとんど変わりない。普通の人間にしかみえないのに」
こちらをちらりと見やって、ルーラが問う。
自分より幼い、目の前の少年が人外の魔物であることが信じられないようだ。
「見た目は、ね。けど、中身を見てみればすぐに解るよ。僕にとっても非常に興味深い験体だ。しっかりと調べて、君たちの考察を聞かせてほしい」
「わかりました! 早速わたしでいいですか! ばらしていいですか!」
「倫理違反のない程度にね」
「ひゃっほおー! それじゃあディルくん、こっちよ!」
ものすごい勢いで詰め寄ってきたソルアが、有無をいわさずディルの手を引く。もはや抵抗する気も失せたディルは渋々ながらそれに従う。
「大丈夫よ! 本当に分解なんかしないから! ちょっとデータを取らせてもらうだけだから!」
ソルアはふんふんと鼻息を荒らげながら、微塵も信用を感じられない言葉を発している。
すべてが終わったら……覚えておけよ。ディルはそんな怨念をこめて、手を振って見送るジオを睨んだ。
シュン、かすかなモーター音を鳴らして閉じた自動扉が、恨めしげな視線を遮った。
静かになった部屋にジオとルーラが残される。
「彼が兵器って、にわかには信じられないんですが。本当なんですか? 兵器であることをぬきにしても、人間と変わらないものを創り出すことが、本当に可能だなんて……。一体誰が、どんな技術でもって彼を作ったのですか」
「それを解明するのが僕たちの仕事さ。上層部にばれたら一発アウトのとんでもない爆弾だけど、悪くない機会でしょ。ソルアに隠れがちだけど、君だって十分知識探求に意欲的なんだから。思う存分彼を調べ上げて。そして君の観点で彼を解明して。よろしくね」
「……はい」
こわばった表情のまま、ルーラはうなずいた。それから数秒の沈黙のあとに、そわそわと身体が動き出す。
「やっぱり、俺ソルアを追いかけます。あいつ、何しでかすかわからないので見張ってないと!」
居ても立ってもいられない、そんな様子だ。
「それじゃあジオさん、失礼します」
軽い会釈をして、あっという間に研究室を走り去っていった。
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