夜の世界6
「――ずいぶんと、詳しいんだな」
「ん、まあな。昔聞いたことあんだよ」
眼鏡を指で押し上げ、覗き見るようにダズ。電灯の光を反射した眼鏡の奥の表情はよく見えない。
「さっきも気になったんだが、ジャル。お前なにか隠してないか?」
どきり、ジャルの身体が僅かに硬直した。
「べ、別に隠してなんかねえよ?」
「そうなのか?」
じっとりと問い詰めるような怪訝な視線が反射の隙間から見据える。
「隠してねえっての!」
その視線を振り払うように声を張り上げ立ち上がったジャルはダズの胸倉を乱雑につかむ。彼の首元に巻かれたマフラーを力強く握ると、こちらへ引き寄せて鋭い眼光を飛ばす。
「触るなっ」
ダズは素早く自らを掴んでいるその腕を素早く振り払う。普段穏やかな彼が血相を変える様子に、ジャルは驚きぽかんと口を開けている。
襟元を整え、マフラーの埃を払ったダズは荒く息を吐くと呆気にとられているジャルを静かに睨んだ。
「これは俺の宝物なんだ。汚い手で触らないでもらえるか」
「んだと……!?」
見下すような物言いが尚更頭にきたらしく、ジャルも負けじと喰いかかる。ダズは淡々と言葉を続ける。
「ジャル、さっき君依頼人に能力を使っただろう。守るべき依頼人に危害を加えるなんてどういうつもりだ?それに、先程の女性。君のことを知っている様子だったけれど、一体どういう……」
「うるせえよ眼鏡!お前には関係ねえだろ、死ねアホ!」
「関係ない、と誤魔化すことに意味などないだろう!あの人の事は聞かないでおくにしても、依頼人に手を上げたことはその理由を説明してもらおうか」
「別にてめえに教える必要もねえってんだよ。あのおっさんの事はムカついただけだっつーの!アホ!!」
「真面目に答えろ!」
睨みあった両者のぶつかり合いは一向に収拾する気配はない。拮抗した論争にしびれを切らしたかのように、突風。
一気に吹き抜けた乱暴な風は衝突する言葉をさらって、窓枠ごと外へと吹き飛ばしてしまった。
「いい加減、五月蝿い」
「…………」
突然の出来事と、少し遅れて聞こえてくる落下したガラスが割れる音。言い争っていた二人はお互いへの苛立ちも忘れ、間の抜けたような顔で仏頂面のディルへとその目を向けたのだった。
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