夜の世界4
「勝手なこと言いやがって……」
隣で、ジャルが何かをつぶやくのが聞こえた。「え?」ダズが聞き返した途端、リックフォルクが足を滑らせたのか大きく転倒した。
「あぎゃ!」
バランスの崩した身体を立て直すなど、ふくよかな体系の彼には困難なことで。間の抜けた叫びとと同時に、大きく尻もちをつく。
「大丈夫ですか!?」
すぐさま駆け寄ってダズは彼の様子を診る。
「お怪我はないようですね」
ほっと息を吐く一方で、リックフォルクは未だ顔を真っ赤にしている。
「使えない護衛たちめ!!もう知らん!!私は先に行く!!」
そして吐き捨てて、素早く立ち上がると手早く埃を払ってすたすたと先に進んで行ってしまう。
「ちょ、お待ちください!!――たくっ」
急いで彼の跡を追ってダズは走り出した。依頼人を一人で行かせてしまうわけにはいかない。
残されたジャルとディルも彼の跡を追わんと走り出そうとする。
「ジャル、行くのかい?久しぶりに会えたってのに」
名残惜しそうに女性が引き留めるのに、ほんの少し躊躇ってジャルは走り出す。しかし少し進んだところでその歩みを止め、振り返る。
「アーシラさん。相変わらずお綺麗で安心しましたよ。……また」
そして再び走り出す。その背中に、アーシラは小さく呟いた。
「難しい事だとは思うけど、いつでも、帰ってきて良いんだからね。ジャル」
「お前、走るの速えよ……!」
息を切らしながら何とか前方のディルに追いつく。前を行く依頼人とそれをなだめようと必死のダズから少し距離を置いて歩いている。その足取りは速く、呼吸を整えながらでは置いていかれないよう進むのに精一杯だ。
「別に、力は使ってないが?お前が遅いんだろ」
特に何の感情もこもっていないような声で、こちらを見向きもせずにディルは前を行く二人へと視線を向けている。
「あーはいはい!悪かったな」
そこで、会話が途切れる。別段話下手という訳ではないが、コイツ相手となると普段の調子はがない。今の状況から、無駄な話をすることがふさわしいことではないということもいえるだろうが。
無言のまま足を進めるも、先程の出来事を、先程現れた女性の事を彼らはどう思ったのだろうか。それが心に引っかかって、思わず切り出した。
「……てか、聞かねぇの?」
「聞く?何を?」
「あー、いや。気になんねえの?さっきの事とか」
「別に。お前のことなんて何の興味もわかない」
下らぬことに労力を取らせるな。と言わんばかりにディルはこちらを見向きもせずそっけない回答。
「……あーそう。ならいいわ」
聞いたこちらがあほらしく感じられる。半ば拍子抜けしてしまう。
確かに、コイツが自分のこと……でなくとも他人のことに興味を示すはずがなかったのだ。
――まあ、聞いてくれない方が助かるっちゃそうなんだけどな。
苦笑して、ジャルは前方の背中を追う。彼はどのように思ったのだろうか。
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