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国境の町3

――――、

歩みを進めた途端であった。突如、指すような視線を感じてディルは振り返る。

「……?」

その先には誰の姿もない。ただ人々が行きかうだけであった。気のせいだろうか。そう思って再び前を向く、瞬間今度は物理的な衝撃が彼を襲った。

「!」

「うわっ」

ドン、と音を立て衝撃の正体が地面へと転がる。
数歩よろめいて何事かと状況を理解した時、その影が人であることがわかった。

「って……、ご、ごめんな!」

ぶつかってきたのは青年だった。ディルよりも少しばかり背が高い、細身の人当たりのよさそうな人物だ。

「……っ」

自分もよそ見をしていたとはいえ、突然ぶつかってきたのは向こうだ。いらだつ感情をそのまま睨みつけてぶつける。

その剣幕をさほど気にする様子もなく、立ち上がった青年は片手を顔の前に出し謝罪のポーズをとっている。

「だ、大丈夫?」

突然の出来事に驚いたディーナが心配そうにこちらをうかがっている。「大丈夫だ」と返すと、何事もなかったかのようにディルは歩き出す。

青年の様子が気にはなったが、進んでいくディルと離れないようにディーナたちは町の中へと歩みを進めた。


人々が歩く中心の通りから離れ、暗い路地裏の通りへと入っていく。頭上を屋根が覆うこの通りは日の光を遮られどこか鬱蒼とした空気を感じさせる。そこを歩く人々もやはり『日蔭者』という言葉が似合うような印象がある者ばかりで、闇の世界、裏の世界を思わせる。

「一本路地に入るだけでこうも違うのね……」

「なんだか、嫌な雰囲気です」

こそり、囁くような声であっても聞こえてしまいそうな。そして簡単にあちら側へと引きずり込まれてしまいそうな、そんな恐怖感がすぐそばに存在していた。
そんな路地の一角に古びた看板の居酒屋が一軒。

「ここか?」

レオから渡された地図を確認すると、確かにこの場所を指している。内容によるとここに情報屋がいるという。

「間違いなさそうです。ですが……あんまりいい予感はしません」

明らかに怪しい通りの明らかに怪しい居酒屋。そこにいる人間なんて明らかに怪しいに決まっている。中に入るのが躊躇われるが、任務のためには仕方ない。
まだ昼間なため、営業時間ではないようだ。『Closed』の看板がそれを指し示している。だが、物は試しだ。意を決してディーナがドアノブに手をかけると、思いのほか容易に扉は三人を出迎えた。カランと小気味よい音で来客を知らせる鈴が鳴る。

「まだ営業時間ではありませんよ」

妙に鼻につく、甘ったるい声が響く。カウンターの奥で小奇麗な格好をした男が、クロスでグラスを磨いているところであった。

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