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エスケイプ アンド ハイド11
 ティズイヴの言葉通り、あたりに人の気配はない。ここにいるのは自分たち二人だけ……

「遅かったね。待ちくたびれたよ」

 の、はずだったのだが。
 薄暗い部屋の中に人の姿が浮かび上がる。
 突然の気配に、ディルはとっさに銃へと手を伸ばす。

「いやあ、済まない。それほど時間はかけていないと思ったのだがね」

 だが、ディルの警戒とは裏腹にティズイヴの声は親しげだ。

「大丈夫、彼は味方だ」

 そう耳打つティズイヴの言葉に、銃へと触れていた手を下ろす。ただし、警戒はゆるめない。

「へえ、君が噂の」

 少年と大人の狭間の、幼さを残しながらもどこか艶のある声が響く。
 暗闇に隠されていたその輪郭が、一歩ずつ、その距離が近づく度に露わになる。
 目に飛び込んできたのはまばゆいまでの金色だった。明けの海からゆるやかに地平を射抜く太陽の輝き。それが腰元まで伸ばされ、ゆらゆらと揺れる。
 その美しさは見る者を惹き付け瞳を奪う穢れなき無垢のもの。しかしながら、残念なことに手入れは全くされておらず、無造作に伸ばされたままのぼさぼさの状態。そのうえ、あちこちにはねて強固な癖となっている。せっかくの美しさが台無しだ。美醜にあまり興味を抱かないディルでさえ、それはどうなのだろうかと疑問を抱く。
 伸びきった髪は顔を深く覆い隠し、一切の表情が判らず。小柄な体型は少年のようにも少女のようにもみてとれ、性別を判別することすらままならない。
 身に纏った衣服はその華奢な身体には似合わないぶかぶかの白衣。指先がまったく見えないほどに袖が余り、地面に付くか付かないかといったぎりぎりの裾は薄汚れてぼろぼろになっている。
 はじめ目を惹いた美しさは、その得体の知れない怪しさにすっかり払拭される。

「――ふむ、なるほど。これは非常に興味深い」

 その姿に気を取られている間に、その人物はディルの眼前にまで迫っていた。顔を覆う髪の隙間から、大きく開いた瞳がまじまじとこちらを見つめている。まるで美術品を値踏みするかのような、すべてを透かして解析されているかのような気持ちの悪さを覚えて、ディルは反射的に一歩退く。

「こらこら、あんまり驚かさないでやってくれ。警戒してんだろ。初対面から引かれるようなことするなって」

「……わかったよ。つい、興味があってね。人の形をした人造兵器なんて、はじめてみるからさ」

「!」

 なぜそのことを知っているのか。ディルは身構える。
 自身の事はハンターの人間と、ここにいるティズイヴ以外は知らないはずだ。


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