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その理由は10

「んだと!?ムグ……!!」

真っ先に喰いかかろうとしたジャルだが、ダズによって阻止される。

(ジャル!相手は依頼人だ!扱いは丁重に!だろ!?)

(分かってる!だけどコイツ……ムカつく!!!)

(解らなくもないが、抑えろ。例え依頼人でなくとも、貴族を敵に回すのは悪い)

聞いたことがある。軍が治める国においても貴族は大きな力を持っていて、表立って語られることはないが政治すらも彼らの発言によって左右されることがあるという。取り分け依頼人であるリックフォルク氏はこの国でも指折りの金持ち貴族であり有する力も大きい。彼を敵に回すということは、国を敵に回すという事態に繋がりかねないのだ。

「……わかったよ」

いろいろと気に食わないが、ここは精一杯の我慢をしてダズに任せることにする。

「依頼人である貴方様は、目的を終えられるまで私たちが護衛させていただきます。三人では心許ないか
もしれませんが、私たちの実力は確かです。どうか、信頼してください」

丁寧なダズの物腰は流石なもので、自分には決して真似できるものではない。面倒なおっさんはあいつに任せて、自分はもう一人の問題人物へ気を配ってやろうか。そう思ってジャルは傍らの少年へと目を向けた。
――しかし、あのおっさんに俺よりも腹立たせそうなのはコイツなのに。珍しく大人しいもんだな。



煩わしい、ジャルの視線を感じながらディルは思った。
正直不満だらけだ。自分以外に一人いるだけで面倒なのが、今回は二人も。まして依頼人は糞みたいな人間。これならいつもの方がマシな気がする。
何とも気が晴れない。その原因はこの任務だけではないようだ。胸の奥でなにかが引っ掛かる。くぐもって、鉛のように重い。これは一体何だ?

昨日、最後に見たリサの表情が忘れられない。揺らいだ輪郭、泣き出しそうな瞳の、その意味が、意図が、分からない。解らないのだ。

「ディル?」

思考を巡らせていた所に、間の抜けた声。ジャルだった。

「どうかしたか?」

「何がだ?」

どうかした――と問われているが、その意味が良く分からなかった。自分は今どうかしているのだろうか。

「何がって、俺に聞くなよ。なんかいつもと違う感じしたからさ、気ぃかけてやったのに」

「お前には関係ない」

「またそれかよー。ま、いいや。任務がんばろうぜー」

ふい、と視線をそらすとジャルは苦笑う。
ディーナもそうだが、こいつらは人の様子をとにかく気にかける。少しでも違和を感じるとこんな風にすぐに近づいてくる。ディルからしてみればそんなことは無駄なこと、迷惑なことでしかない。他人を気にするより自分のことだけを考えていた方が効率的だし、余計なことに思考を使わなくて済むはずだ。何故他人の一挙一動にそこまで左右されなくてはならないのだろう。余計な事をして心を痛めることに得るものなど在りはしない。
そうまでして、何故人は人のために在ろうとするのだろう。

考えることすら馬鹿げたことだ――そう思って、ディルは思考を止めた。胸の奥の鉛は消えないままだった。




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あきゅろす。
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