その理由は8
少しばかり逆上り、ディルとリサが退室してすぐのレオの部屋の中。
作業机の左手前に置かれた、客人用のソファに腰掛けたミリカはテーブルに置かれたティーカップから紅茶を一口。
「おいしい」
満足そうに頬を緩ませる彼女の後方、椅子に座ったままのレオが被っていた帽子を上げた。黄金色の瞳が、天井から吊るされたランプの光を反射する。
「それにしても、ずいぶんと久しぶりだねぇ」
「直接会うとなるともう二年くらいかしらね?変わってないわね。あなたは」
カップをソーサーに置くと、ミリカはソファへともたれかかる。
ははは、と薄い笑い声とともにレオは再び帽子を深くかぶり直す。
「レオは老け顔だから、歳とっちゃうとあんまり変化しないのよねー」
「こらメルベル。老けてるとか歳とるとか言っちゃいけません。そう言ったらあんたは一体何歳なのよ……いたたた……嘘だようそうそ」
むぅっと頬を膨らませたメルベルがレオの頬を思いっきりつねる。
「ふふふ」
二人の様子にミリカは微笑ましげに笑い声をもらす。小さな天使とおっさんのやり取りだ。滑稽に映ったのかもしれない。
「そういや、どういう心境の変化よ?しばらくは顔合わせない方が仕事がやり易いとか言ってたのに」
メルベルを無理やり引き剥がしたレオが問うと、ミリカはおもむろにもたれていた背筋を伸ばした。
「そうね。ちょっとした心変わり。別にいいじゃない。今回みたいな情報は、直接の方が手っ取り早いでしょう?」
「まあ、そうだね。なんてったって闇のオークションだ。扱う品物の情報価だって高い。開催だって公には出来ないからねぇー」
「そういうこと」
にやり、怪しい笑みを浮かべた両者の間で繰り広げられるのは、まるで裏組織のやり取りのような会話だ。ここは健全な団体のはずなのに、メルベルは苦笑する。
「それにしても。闇オークションね。……大丈夫かな?みんな」
「得られる情報が大きい分、負うリスクも大きくなるからね。でもまあ、彼らなら大丈夫なんじゃないかな?誰かが暴走しても、うまいこと引き留めてくれるはずさ」
「ずいぶんと、信頼してるのね」
「まあね。自慢の団員たちですから」
「――彼も?」
ミリカの眼光が鋭く、レオを射抜いた。
「勿論」
迷いのない回答。
「彼」というのが誰なのか、大方察しはついた。レオはゆっくりと口を開く。
「ミリカ。君が何を知っているかは問わない。だけど、あいつだって俺らの一員だ。それに、味方が信用してやらないで、誰が信用してもらえるってんだ?俺だって一応あいつらのボスだからね。信じて欲しいし、信じていたい」
「……ふぅん」
素敵な心掛けね――ミリカが薄く笑うのを、レオが纏う空気がほんの少し張り詰めるのを、その後ろでメルベルはただ見つめた。
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