その理由は3
人が、戦いに身を投げる理由はそれぞれだ。
単純に欲を充たす為だったり、目的を果たす為だったり。戦いこそが目的という場合もあるのだろう。
時折考える。
人を戦いへ向かわせる理由とは、一体何なのだろうかと。
きっとそれは、容易く踏み込むことのできない領域。人の記憶の、心の深い場所。
平穏を望んでいた優しい瞳は、それとは真逆の世界を見つめている。
君が、引き金を引くことを選んだのは―――どうして?
支部を後にして、ディーナは改めて後ろの景色を振り返る。
青い空と、緑の風景を切り取ったような街並みにそびえ立つ、白。灰色に近いその建造物は、穏やかな街並みに溶け込んでいる。調和しているような、不協和のような、どちらともとれない奇妙な光景だ。
訓練だろうか、銃声が空を揺らしてわずかに鼓膜を震わす。平穏とは、なんなのだろうか。
風がディーナの横を吹き抜けていく。
――いかなくちゃ。
受け取った報酬金を本部まで置きにいったら、次の仕事が始まる。
新たな任務は単独だ。
「ひとりだなんて、久しぶりだな……」
思い返すとずいぶん長い時間を彼と過ごしていた気がする。
でも、彼は知らない。
――私の、戦う理由。
風が少しだけ強くなる。ディーナは再び歩みだした。
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風が窓を揺らす音。
窓から入るわずかな光が眩しい。薄く眼を開けると見慣れた無機質な天井。ぼやけた視界が明瞭になるにつれ、次第に今までの記憶が思い出されていく。ディルはゆっくりと身体を起こした。
どうやらここは本部の自室のようだ。いつの間にか帰ってきていたらしいが、その記憶は全くない。
ベルザークで遭遇した軍人。彼との戦いが原因で意識を失って、そのままここまで運ばれて来たということか。
全身にのしかかるような気だるさを振り払って、ベッドから出る。
腹の傷の痛みはとうに消えている。着ていたシャツを脱いで、新しい服に腕を通す。着替えを終えたところで、ノックの音。
「おじゃましまーす、って起きたんだ!」
ドアを開けて入ってきたのはリサだった。ディルが目を覚まし、更に着替えも済ませていたことに驚いたらしく、声を上げる。
「よかった!珍しくぼろぼろで帰ってきたから心配してたのー!大丈夫?」
「ああ。それより、俺はどのくらい寝ていた?」
「一日くらいだよ」
「そうか」
一日。なかなか多くの時間を費やしてしまった。気を失っていた事も含め、無様な失態であったといえる。小さく舌打ち。
「あ、そうだ。怪我!新しい包帯持って来たんだ!診せてよ」
「いい。治ったから」
「へ?治るわけないじゃん。あんなに血だらけだったのに」
「治ったんだ」
「嘘」
納得がいかない様子で、リサはディルの前に立ちはだかる。治ったと言ったら治ったというのに、何故そんなにも食い下がるのか。
「あたしは、自分の目で見るまで信用はしない!」
そう叫ぶと、リサは勢いよくディルへと飛び掛かる。
溜息ひとつ、それとともに僅かに身を反らしてリサを避けると、ディルは部屋から出るべくドアノブへと手をかける。
「ちょっと、何処行くの?」
勢いよく地面へとダイブしたリサは、ぶつけた鼻先を赤く染めて、半身のみを起こして去ろうとするディルを呼びとめる。
「レオの所」
振り向きもせずにドアを閉めて、ディルは廊下を歩きだす。
「ま、待ちなさいよー!」
強打した鼻の痛みに涙を浮かべ、リサは慌ててディルの跡を追いかけた。
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