その理由は2 「――と、昔話に花を咲かせていたいけど、そう言う訳にもいかないね」 今までの楽しげな表情から、ほんの少し真面目な顔つきに変わる。 本題だ。 「わざわざ来てもらってごめんね。それじゃあ、仕事の話をしなくちゃだ」 「はい」 うなずくと、ディーナは持ってきた鞄から何部かの資料を取り出す。ベルザークで情報屋から得た情報と、住民から得た情報をまとめたものだ。 「これが、今回得た情報です―――」 「――うん。なるほどね。ありがとう」 一通り報告を終えたところで、腕組みしながらハルが頷いた。気難しそうな面持ちで、背もたれに深く身を沈める。 ベルザークの情報を必要とするなにか重要な理由があるのだろうか。ディーナは、任務中気になっていたことを聞いてみようと思った。 「あの、どうして敵国の情報を……?」 「ああ、ごめんね。俺にも良く分かんない。上から言われたことだから、ね」 もたれかかっていた身体を勢いよく起こして、ハルは苦笑する。 「そうですよね」 たとえハルが事情を知っていたとしても、極秘裏に情報を集める理由を簡単に部外者に教えるはずはない。そう分かっていたので追及はしない。 「あ、これ。今回の報酬金」 唐突、思い出したように立ち上がったハルが、何処からか封筒を持ちだしてディーナに手渡す。厚みのある封筒には依頼達成時に受け取る予定であった金額分の札束。それを一枚一枚確認する。確かに条件通りだ。 「確かに。それでは、これで。ご依頼ありがとうございました」 受け取ると、おもむろにディーナは立ち上がる。これにて、依頼終了だ。 「うん。ありがとうございました」 遅れて立ち上がったハルは笑顔でディーナを見送る。 「ディーナ」 扉に手をかけたところでハルがディーナを呼びとめる。 「何ですか?」 呼び止められると思っていなかったので、ディーナは驚いて彼を見る。 「またおいでよ。今度は仕事じゃなくて、さ」 「ありがとうございます、また――」 笑顔一つ返して、ディーナは部屋を出た。 ぱたん、音を立てて閉められたドアを、ハルはただ見つめていた。 彼女の笑顔は、どこか曇っていたように思う。 『あのとき』とはもう、いろんなことが変わってしまったのだ。 「ハルさん?どうしたんです突っ立って」 再び開いたドアから、ルカが入ってくる。 「彼女、アリネたちに送らせましたよ。でも、ハンターってもっとごっつい人たちの集まりなんだと思ってました。あんな、普通の女の子だとは。はじめ、目を疑いました」 「彼女とは知り合いだったんだ」 「そんなんです?」 「うん。彼女の父親、軍人だったんだよ。それで何度か縁があって」 「へえ」 「ねえルカ」 「はい?」 「君はどうして軍人になったの?」 「変なこと聞くんですね」 「はは、そうだね」 怪訝そうに眉をひそめるルカに、「忘れて」と笑って誤魔化す。 らしくない事を聞いてしまったと思う。 ハルは窓の外に目を向けた。部下に案内されたディーナが、丁度門を出る所だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |