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月を冠する国8

「さて」

煙幕もすっかり晴れ視界も良好。広場の状況を確認する。暴漢たちの人数は十。噴水を囲むようにして五人、入口を塞ぐのは二人。残るは噴水前に立つリーダー格の男とその左右を固める二人。全員が銃やナイフといった凶器を所持している。そして広場にいた民間人と入口で立ち往生の軍人たち。男はマサの恋人を人質に取っていて、状況は良いとは言えない。男たちは広場内の人の動きに気を配っていて、すこしでも怪しい動きを見せれば即発砲されかねない。

「少しでも奴らの気を引ければ、その隙に人質を解放できるんですけど」

「気を引けばいいの?」

「はい。私が術を発動できれば、なんとかなるとは思います。広範囲の展開は発動に少し時間がかかるので、その時間を稼いでいただければ。でも、危険ですよ」

今にも自らが飛び出していくと言わんばかりのマサをなだめるようにリイラ。しかし、マサの表情は至って真剣だ。

「何もできないのは嫌だ。危険がなんだ。俺だってヴィエラを助ける力になりたい」

「……わかりました。怪我じゃ済まなくても、知りませんよ」

「おう!ありがとうな」

マサはにこりと明るい笑顔を見せる。しかし、その表情はどこか強張っていて彼の抱く拭いきれない恐怖と不安を感じさせる。
そんなマサにリイラは耳打ちする。それを聞いたマサはこくりとうなずいて、決意を瞳に宿す。

「うおおおおおおっ!」

恐怖を払うように大きく猛りながら、マサは人質をとっているリーダー格の男に向かって一気に走っていく。緊迫を切り裂く青年の突然の行動。広場の意識が一気にマサへと集中する。軍人さえの手を出すことのできない自分たちの圧倒的優勢の中で、巻き込まれた一市民が反旗を翻すなど男たちには想定外のことだったのだろう。ざわめきとともに男たちの動揺が伝わる。一瞬の動揺は、迅速かつ冷静な判断力を鈍らせる。
銃弾一発、力を持たない青年を止めるにはそれだけで十分なはずだった。しかし、男たちの思考回路がその結論に至るまでのわずかなタイムラグがそれを困難なものとした。銃口を構えた時、マサはすでにリーダーと同位置。うかつな発砲は自らの統率者さえも貫きかねない。動く標的だけを的確に狙い撃てる実力を持つものはこの中には皆無だった。

「来るなああああぁぁぁ!?」

急激に接近するマサにリーダー格の男は激しく動揺する。威嚇するかのように声を荒らげると、銃口を突進してくるマサの方へと向けた。ぽっかり空いた真っ黒な空間が無機質に此方を睨む。それでもマサは怯まない。

引き金に添えられた指に力が入る。銃口から鉛玉が発射されるその一瞬前、まばゆい光が広場全体を包んだかと思うと、男の手の中で突如として拳銃が炸裂する。破裂音とともにその右腕が大きく吹き飛んだ。

「おおおおああああアァァ!?」

全身に走る激痛が混乱と同時に男を襲う。うめくような、つんざくような声が響き渡る。リーダー格の男だけでない。この場にいた暴漢たちすべての掌の中で、それぞれが持っていた凶器が突如として持ち手に牙をむいたのだ。多くの暴漢たちが右腕を失い、痛みに我を忘れて叫び狂っている。
――これは、暴漢たちの見ている景色。

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