月を冠する国2
町の中心部の広場へと移動する。元来一つの町であった名残から、この町の名前もザルカンタ同様グレンツェというらしい。二国の文化がまじりあった様相、国境が封鎖されていなければ融和の象徴となるべき町だっただろう。
広場の真ん中の噴水から絶えず噴き出す水が、乾いた空気を濡らして心地よい。
「しっかし、あっつい国だな。ここは。ほんのちょっと国境越えただけなのに、どうしてこうも違うんかねえ」
「馬鹿か、お前は。国境越えるとか、大声でいうな」
首元の服をバタバタ仰ぎながら、気だるそうなマサをディルが睨む。
「あー、ごめんって。だけどそう睨むなよ。愛想よくいこうぜー」
「本当、緊張感のない人です」
あきれ顔のリイラ。ディーナもまた苦笑する。
口数が増えてきたことから、少しばかり休んで大分元気は取り戻せたらしい。顔色も悪くはない。
「そういえば、会いたい人がいるって言ってましたね。誰なんです?」
興味にほんの少し目を輝かせて、リイラがマサに問う。するとマサは少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめ、それを見逃さなかったリイラがさらに食いつく。
「誰なんですか?」
「……恋人だよ!」
「恋人!」
リイラの目が一層輝く。マサは恥ずかしそうに地面を見つめている。意外な表情に、ディーナはすこし驚く。
しかし。恋人とは。ずいぶんとロマンチックだ。
「昔、まだ国境が封鎖される前に出会ったんだ。俺がザルカンタで、彼女がベルザーク。国が違うから、ちょっと会うのは大変だったけど会えないことはなかった。だけど、国境が封鎖されて、行き気ができなくなって……それからはずっと会ってない」
「恋人さんと会うために、あんな必死だったんですね」
「そうだよ。なのに記憶を消すとか、みんな怖いんだよ」
「ははは、ごめんなさい」
真面目なマサの面持ちから、彼が本気であることはうかがえる。成り行き上の無理矢理感や突拍子もない行動に不安はあったが、意外と芯の強い人なのかもしれない。表面だけで人は判断すべきではないな、とディーナは思う。
「それじゃあ、そろそろ行こうか。」
休憩はここまでだ。ベルザークにたどり着いたのだから、ここでの任務を果たさなければならない。ディーナは立ち上がる。
「ここからは二手に分かれましょう。こっちの情報屋さんに会いに行くのと、町全体を見て情報を得るのと」
「わかった。じゃあ、お前とはこれでお別れだな」
言って、ディルはマサを見る。マサは意表をつかれたようで、きょとんと目を見開いている。
「あ、そうか。依頼内容はベルザークまで連れて行くことだからね。普通巻きこんじゃった人は最期まで助けなきゃなんだけど、マサさんの場合自ら飛び込んできたんだし……」
「ちょっと待ってよ!君たち冷たい!異国の地で俺一人ぼっちにされるのかよ?」
焦るマサ。気持ちも分からないでもないし、できることなら協力したいが、こちらにもやるべきことがある。
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