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国境の町14

「依頼としてって、具体的にどうすればいいんすか?」

記憶喪失の危機から脱して、一転再び軽快そうな口調で青年は問う。本当に、ころころと様子が変わる青年だ、とディルは思う。

「報酬を払ってくれればいいです」

「報酬?俺、金持ってないよ?」

「問題外ですね……」

「報酬払えないんなら依頼としては認められない。やっぱ置いていくか」

「えぇ!?ちょっと!やだよそんなの困るって」

「うるさい」

なんというのか、落ち着きがない。自分よりも年上であろうに。耳障りな騒音を発する男に冷たい視線を送るディル。
その視線に気づいているのかいないのか、青年は依然としてそわそわとした様子で忙しない。先程の真剣な面持ちは何処へ行ったのか。

「それじゃあ、情報と引き換えにすればいいんじゃない?ベルザークに着いたらリイラが記憶を消せばいいんだよ」

「え、結局俺記憶消されるの!?」

「まあ、情報はお金と同等の価値がありますからね。下手に口外されるよりはこれでいいと思います。それに、正確には夢と現実を混同させるだけですから。記憶が完全に消されるわけではありません。心配しないでください」

「えー……」

青年は不満げに唇を歪める。まったく面倒なことになった。ただでさえ繊細な任務に余計な荷物が付加されてしまった。責任の一端を負っているので文句は言えないが。先が思いやられる。ディルは遣り切れない思いを息とともに吐き出す。

「とりあえずは、依頼として私たちがあなたをベルザークヘ送り届けます。報酬については依頼達成後に考えましょ。いいよね」

「おう。わかった。よろしくお願いします!」

「同行してる間は絶対に余計なこと口にするんじゃねえぞ。基本的に黙ってろ。問題が起きたら俺はお前を消すからな」

「お、おう……。ま、よろしくな!少年!」

威圧され、青年は少しばかり畏縮する。も、すぐさま何事もなかったかのようににこりと笑顔を浮かべる。あまりに自由奔放というのか、物事を気にしなさすぎる。逆に拍子抜けしてしまう。

「あ、自己紹介がまだだったよな。俺はマサ!」

無理矢理手を握ると、ぶんぶんと上下に振る。馴れ馴れしいことこの上ない。「触るな」とディルはその手を振り払う。

「なんだか心配になってきました」

「うん。私も。ごめんね、リイラ。」

困ったように眉根を寄せるリイラに、ディーナもまた同意する。もしかしたら、無難に記憶を消して置いていった方がよかったのかもしれない。そんな後悔がおそうも、もう遅い。

「無事、任務が終わると良いのですけど」

先行きに陰りが見えてきた。そんな予感を脳内で必死に振り払いながらリイラは向かうべく行き先、ベルザークの方向を見やるのだった。そんな気持ちを余所に高い壁が覆う先に続く空は、驚くほどに青かった。


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あきゅろす。
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