国境の町13 「そういえば、さっきも言ってたみたいだけど……どうしてベルザークヘ?」 「俺、会いたい人がいるんだ。でも、国境が完全に閉鎖されちゃって。会うことができなくて。だから、ベルザークヘ行く方法があるってんならそれにすがりたい。お願いだ、俺も一緒に、連れてってくれ!」 「……!」 必死の形相で訴える青年に気圧されて、ディーナは言葉を呑む。青年の心からの言葉だ。無下にすることができないのであろう。 「駄目です。一般人のあなたにとって危険でしかありません。命の保証はできませんし、無事にベルザークヘ辿りつける保障もありません。何より、私たちはあなたを信用できません」 ディーナに代わって、リイラが口を開く。 ひたむきな彼の様子から、彼が真剣であることは分かった。しかし、一連の彼の行動から容易に同行を許すことはできない。非情かもしれないが、リイラはそう判断した。 「じゃあ、どうすればいいんですか!……連れてってくれないってんなら、この情報をばらしますよ!」 「その前に私があなたの記憶を消します」 「う……」 青年は言葉を失う。万策尽きたようで、しゅんと、力なく肩を落とす。 「待って、リイラ……!」 ディーナがリイラと青年の間に割って入る。 「ディーナ?」 「ごめん。甘いって分かってる。でも、この人の力になってあげちゃだめかな……?」 瞬間、青年の顔がぱっと明るくなる。 それとは対照的にリイラは表情を強張らせる。 「ディーナ。分かってるんですか?私たちは任務を最優先しなくてはならないんです。情に動かされては、駄目なんです」 「分かってる。けど、このまま記憶を消してしまえば、彼は機会を失うことになる。その人とはもう二度と会えなくなるかもしれない。そんなの、辛いじゃない。……手を差し伸べることも、私たちの役目だと思うの」 甘い。確かに甘い考えだ。手を差し伸べるだけで、全てが救われるわけではないのに。しかし、彼女の瞳はまっすぐだった。まっすぐ光を映すその蒼に、何故か心が揺れ動く。 リイラもまた、逢うことが叶わない辛さを知っていた。行き場のない虚しさと、涙を知っていた。だからこそかもしれない。その甘さに言葉を返せないのは。 「……分かりました。では、依頼ということで彼をベルザークに連れて行く、というのはどうでしょうか」 「リイラ!ありがとう」 「ディーナは、甘いです……」 嬉しそうに笑顔を浮かべるディーナに、リイラは頬を膨らませた。そして思う。そんな自分もまた、甘いのだと。 [*前へ][次へ#] [戻る] |