国境の町12
「……はあ。もう済んじゃった事だから、責めたって仕方ないか。私たちも気付かなかったし。……けど、気をつけてね」
苛立ち、というよりは呆れたような面持ちでディーナはディルへと視線を変える。
「……責任は取る」
自分に落ち度があったことは事実だ。それだけ返したものの、さてどう責任をとればいいものか。反省しているのかよくわからない青年をじっと見る。
一番手っ取り早いのは、口封じだ。口外するなと、そう頼めばいい。だが、目の前の軽薄そうな青年が約束を守るだろうか。何かの拍子にほろりと漏らしてしまいそうである。なら、いっそのこと殺してしまおうか。そうすれば、心配は一切なくなる。
「ディル?」
リイラの声。はっとして彼女を見ると、不安げにこちらを見上げている。
「どうしたんです?怖い顔して」
「……いや、どうやって口を封じようかと思って」
「殺気立ってましたけど?」
「……」
「駄目ですよ。物騒なこと考えちゃ。またディーナが困ってしまいます。彼についてはどうしましょうね。記憶を消すこともできなくはないですよ?」
「……そうだな」
何故彼女が困るのだろうか。リイラの言葉の意味を図りかねるが、今の問題はそれではない。記憶を消す。それが一番最良だろうか。
「記憶を消すって……!ちょっとまってよ!俺やだよ、そんなの!」
一連の会話を聞いていたのか、青年が急に抵抗をはじめる。記憶を消されるのがそんなに嫌なのだろうか。まあ、普通に考えれば記憶をいじられるのには抵抗がある。ハイ、どうぞ。なんて簡単にさせるわけもないだろう。
「落ち着いて。あなたが口外しなければ、そんなことはしないから」
「ほんとだな!俺、口外しないよ!」
「……本当か?」
口外しない、とはいうものの全く信用できない。だからこそ彼の処遇をどうするかに迷っているのに。
「なんか信用できないなぁ」
「そこをなんとか!」
青年は地面に頭を打ち付けて懇願する。思わぬ気迫に驚くディーナ。
「俺はベルザークに行きたいんだ!記憶を消されるなんてごめんだ!」
青年の表情は真剣そのものだ。先程までの軽薄そうな様子からは一変して、違和感すら覚える。
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