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国境の町11

「ディル。何があったか教えてもらってもいい?」

「こいつがいきなり現れて、土下座したかと思えばいきなりベルザークへ連れてけとか言い出した」

「そう。それで、あなた。どうして私たちがベルザークへ行くってことを知ってたの?」

ディーナに問われ、青年はやっと半身を起こし正座の姿勢をとる。背筋を伸ばし、ディーナの瞳をまっすぐ見つめる。

「あんたたち秘密ルートってのでベルザークにいくんだろ?さっき情報屋とやり取りしてたことも知ってるよ」

「質問の内容に答えてください。どこで知ったんです?それに…どうして情報屋さんのことまで……」

「大体知ってるよ」

青年は得意そうに笑みを浮かべると腰についている小さな袋から何かを取り出す。

「それは……!」

青年の手の中には小型の機械。中心部の大きな起動スイッチと右側から延びる一本のアンテナ。まぎれもなくそれは出発前にリサから受け取った通信機であった。

「………」

それを見た途端に、ディルの表情がわずかに歪む。嫌な予感。通信機を入れていたはずのポケットを確認する。
……やはり、そこにあるはずの機械の感触はなかった。いつの間にか落としそれを目の前の青年に拾われたらしい。失態だ。ディルは小さく舌打ちする。

「さっき君とぶつかったでしょ?その時に落としたみたいだね。拾ったんだ。何だろうと思っていじってたら、ここから声が聞こえてきて……それで全部、聞いちゃった」

通信機のスピーカ部分を指さしながら青年はペラペラと流暢に口を動かす。
想定害の事態。更に事は深刻だ。どこぞの者とも知れない男に情報が流れ、加えて彼の様子から、その情報が重要だとは微塵も思っていないことが分かる。彼にとっては興味本位でつついた穴から面白そうなものが出てきたといったところだろう。その程度の認識で、彼がこの情報を外に漏らさないという確証が、全くもって持てないのであった。
もとは自分が通信機を落としたことに気付かなかった事が原因だ。責められるべきは自分だろう。しかし、この目の前の青年の全く悪びれない様子は何なのだろうか。情報を得て強気の様子だが、普通は落とし物をそのまま持ち帰ることはしないだろう。自身に満ちた彼の表情に苛立ちがつのる。

「普通、目の前で誰かが物を落としたら声かけるとかしないかな……?」

呆れた様子のディーナがいつもより低い声で心中を代弁する。
じとり、冷たい眼差しを向けられて、青年はたじろぐ。

「いや、だってさ。声かけられる状況じゃなかったし。落としてる事に気付いたときにはもうかなり距離あったし……。仕方ないじゃん。ごめんって」



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