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国境の町10

「俺も、ベルザークに連れてってくれ!」

突然の出来事に、目を疑う。目の前の青年は半身を大きく突っ伏して頭を下げている。もはや地面にめり込むのではないかという勢いだ。実際頭を下げたとき地面とぶつかるような鈍い音が聞こえた。彼の頭が心配になるが問題はそこではない。

「……は、あんた今、なんて……?」

「だから、あんたたちベルザークに行くんだろ?俺も、連れてってほしいんだ!」

「……どうしてそれを……!?」

自分たちがベルザークへ行くということは仲間内以外には極秘の事柄だ。先ほどやり取りをした情報屋は別として一般人が知るはずもない。任務の内容を漏らした記憶もない。目の前に突っ伏しているのは何の変哲もない一般人だ。彼がこの情報を知るということが起こりうるはずがない。

道の真ん中で突然の土下座。行きかう人々の視線は当然集まってくる。そんな状況で、最悪なことに彼の魂の叫びは周囲の人間にばっちり届いてしまっている。そう、『ベルザークに渡る』という今回の任務の目的にして秘密事項がダダ漏れになってしまったのである。

予想外の事態に思考が停止する。国境が緊張する中、ベルザークへ行くなどと大声で公言しているのを見て不審に思わない人はいないだろう。どよめきが周囲に拡散し辺りは次第に騒立っていく。
収拾がつかなくなる前に、ここにいる人間をすべて消してしまえば口封じになるだろうか……。そんな物騒な結論に思考がたどりついたところで、通りの一体にまばゆい光が走る。

煌き、間もなくして周囲の騒がしさは一掃され違和感を覚えるくらいの静けさに包まれる。先ほどまで騒ぎ立っていた人々は一瞬のうちにすべて眠りについている。

「よかった……リイラ、ナイス!」

「間に合ってよかったです」

術を発動させたリイラがほっと胸を撫で下ろす。どうやらあたりの人々はリイラの術によって眠らされたようだ。
彼女の能力は幻術だ。人々にまやかしを見せ惑わす呪術。視覚や聴覚など五感すべてに働きかけ相手を術中に陥れる。一度迷いんでしまえば術師が解放するまでその手の中で踊り続けることになる。

「相手を眠りの中に落として、夢という幻覚を見せる術です。下位の術ですが広範囲に及ぶので、これが一番最適かと。皆さんには少し眠っていただいて、一連の事柄を夢であったと思ってもらいます」

穏やかな笑顔で説明をするリイラ。彼女によって事態の悪化は防ぐことができたようだ。

「それと、一応私たちの周囲に小さな幻術をかけました。周囲からの干渉を受けない代わりに、私たちも周囲に干渉することができません。外から姿が見えないようになっているので、お話をするにはちょうど良いと思います」

「うん。ありがとう、リイラ。さて、」

ディーナは視線を下方へと落とす。そこには依然として土下座の姿勢を崩さないまま、顔だけはしっかり上げて周囲の状況を不思議そうにうかがう、青年の姿。


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