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国境の町9

「……俺は行く」

そう考える二人とは異なるようで、ディルはそう告げるとお構いなしに歩いていく。

「ちょっと、待ってよ。……もう!」

彼には恐怖というものがないのだろうか。通常の感情なら少しくらい怖気づいてもおかしくはないのだが。ディーナは呼び止めてもなお止まる様子のない彼にため息をひとつ吐いて、それでも一人で進ませるわけにもいかず、その後を追った。



「あの、すいません!」

呼び止める声がして、ディルはそちらへちらりと目線を動かす。
ひょろりとした自分より少しだけ背の高い人物。さて、どこかで見たことがあるような。そんな気はするのだが、どうでもいい。今は任務中だ。関係のない人物に注意を向ける必要もないだろう。
そう結論にいたって、ディルはその青年から目をそらして歩き続ける。

「ちょっと!聞こえてる?」

ずいっと目の前に青年が現れる。進行方向を塞がれる形となってディルは足を止める。

「さっきから呼んでたのに、なかなか気づいてくんないんだもんな。しっかし、アンタ歩くのはやいねぇ」

へらりとした笑顔で目の前に立ちふさがる人物。邪魔なうえに馴れ馴れしい。

「何だ」

苛立ちを隠すことなく前面に押し出した声で威嚇する。が、それを気にしない様子で青年は笑顔を浮かべている。と、思えばいきなり地面へと座り込み……。



「相変わらず歩くの速いですね、ディルは」

「ほんと。少しくらい気を利かせてくれてもいいのに……」

「ディーナはいつも大変そうです」

さっさと行ってしまったディルを追って、ディーナはリイラとともに足早に町を進む。リイラの言葉に軽く笑って返すと「そんなことはないよ」と続ける。

物好きかもしれないが、私は好きでやっているのだから。
ただ、なんとなく気になるのだ。ちっとも笑わない彼の本当の笑顔が見たい。最初からずっとそう思っていて、それだけのために一緒にいたいと思うのだ。好奇心というか意地というか。我ながら滑稽だとは思う。

歩く人の流れの中に見慣れた後姿が見つかる。時間が惜しいとばかりに急ぎ足であった彼に容易く追いつけたことを不思議に思いながら、すぐに彼がその歩みを止めていることに気付く。
どうしたものか。横にいるリイラと顔を見合わせると、彼女も不思議そうに首を横に傾けた。

ここから見える背中はいつもと変わらず警戒心の塊のようなオーラを放っていたが、突如としてそこに虚をつかれたような困惑の色が現れる。
声をかけようと口を開いた途端、やけに大きく、焦燥に駆られたような、聞きなれない声があたりに響いた。


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あきゅろす。
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