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国境の町5


ようやく階段を降り切ると、平淡な地下通路となる。この頃には暗闇に目も慣れてきて、あたりの様子も割合容易に確認できた。非常灯の微かな明かりが道のりを示す。その突き当りに『ゲハイムニス』と書かれた看板と鋼鉄製の扉が見えた。

「ここが情報屋かぁ……長かった」

「こうも暗いと、精神的に不安定になってきますよね……」

「なんか分かるかも、大丈夫?リイラ」

「はい。大丈夫ですよ」

近くで見ると扉の大部分は錆付いていて老朽化が進んでいるようだった。取っ手部分のみは新しく付け替えられていて、薄暗い光沢がそれを浮かび上がらせており、浮いている印象を与えた。すこしためらって扉に手をかけると、軋んだ音を立ててそれが開く。瞬間中から漏れる光に目がくらむ。


「イラッシャイマセー」

抑揚の少ない無機質な声が出迎える。
光に目が慣れてきて、ようやくその正体が確認できるとそこにたたずむ人物の異様なたたずまいに瞬きする。
目に悪い色合いのぶかぶかのローブを身にまとい、第一印象を決めるその顔は長い前髪にすっかり覆われて分からない。薄い唇が紡ぐ無機質な音は中性的で、それが男なのか女なのかの判別も容易ではなかった。

「お客サンデス?」

妙な音程の声色が地下の一角にあたえられた空間に響く。
やけに明るい光が煌々と照らす室内は、それまでの鬱蒼とした地下通路とは対照的であった。しかし、その明るさ反して周囲を覆う壁は扉と同じ鋼鉄。酸化して茶色に濁った壁に、補強用に新たな鉄がつぎはぎにあてがわれている。ぬくもりを感じさせない鉄色が嫌な閉塞感を生む中で、扉の正面に構えた木製のカウンターがひときわ存在感を放っている。

そのカウンターに腰かけて、ここのオーナーたる人間がはりつけたような笑みを浮かべている。滑稽にもとれるその風景に気を取られる中で、ひとりいつもの平静を保ったディルが言葉を発する。

「ハンターだ。お前は情報屋か?」

「ヤヤ、話はウカガッテオリマシタよ。ササ、ドウゾお掛け下さい」

異国語混じりの変なイントネーションとともに、部屋の右手にあるソファへと案内される。中央に空っぽの花瓶が置かれた長方形のテーブルの四方を囲むように配置されたソファ。一つは紅に金の縁取りがなされた立派なもの。それと向かい合うように横長の質素な客人用のものが置かれている。そちらに腰かける。その瞬間舞い上がった埃にリイラはくしゃみして、怪訝そうに眉をひそめた。


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