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国境の町4

営業時間ではない、とはいうもののすでにテーブルの上には屈強そうな男が突っ伏していて、早すぎる晩酌をしていたようだ。店のレイアウト自体はなんの変哲もない普通の居酒屋のものであったが、そこにいる客と、グラスを磨くマスターであろう男たちからはただならぬ空気を感じられた。

「こいつが情報屋か?」

裏社会と何らかのかかわりがありそうだが、一見するとその男はただのマスターにしか見えない。不審そうな眼をこちらに向けて、相変わらずグラスを磨いている。

「きみたち、まだ子どもじゃないか。遊びだとしても、こんなとこに来ちゃいけないよ?」

「あの、私たち。情報屋さんに会いに来たんですが」

「情報屋ぁ?一体何の……」

言いかけて男は手の動きを止める。目の前の少年の頬の印が、彼のよく知るものであることに気付いたからだ。

「……と、そのタトゥー。君たち、ハンターか」

グラスを置き、男はカウンターの中からこちらへと近づく。

「こちらだよ」

仕方なし、といった様子で手招きすると、男はカウンターの奥の棚を横にスライドさせる。重い音を立ててそこから現れたのは、地下へと続く階段であった。

「隠し階段……!」

予想していなかった出来事に目を見開いて、招かれるままディーナたちはカウンターの奥へと進む。

「ここを降りた先に情報屋がいるよ。これは秘密事項だからね。用がすんだらさっさと帰るんだよ」

上からみて階段はかなり長く続いているようで、その果てが見えなかった。「早く行くんだ」と男にせかされるまま、階段へ足を踏み入れる。三人が進み終わると、男は早速棚をもとに戻してしまったようで居酒屋へ続く道は閉ざされてしまった。同時にそこから入っていた光は遮られ、小さな非常灯がかすかに照らすだけの暗い空間に閉じ込められるかたちとなった。

「ちょっと……なんなんだろあの態度」

「秘密事項と言っていたわけですし、仕方がないのかもしれません」

ずさんにも取れた男の態度にディーナはむっとする。あまりにも不十分な説明や対応に流石に苛立ちを覚える。秘密事項であるにせよ、もっと良い対応ができないものなのか。

「……にしても、異様な所だね。居酒屋には戻れないし先に進むしかないみたい」

「そうですね。足元も見えづらいですし、慎重に進みましょう」

非常灯の明かりは小さいもので、わずかに照らされた足元がぼんやりとわかるだけで視界は非常に悪い。加えていつまで続くか分からない階段。一歩踏み外したら、考えただけでも恐ろしい。

「早くしろ」

不明瞭な視界の中、ゆっくりと慎重に進む二人とは対象にディルは淡々と前へと進んでいく。まるで何の障害もなく視界が見えているように、その足取りには迷いがない。

「よく普通に進めるね……」

「別に、これくらい大したことはないだろう。置いて行くぞ」

「さすがですね……」

苦笑するリイラ。先はまだまだ暗闇だ。


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