国境の町1
薄暗い部屋の中に朝日が差し込む。あたたかな日差しは眩しさとともに眠りのふちにあった意識を覚醒させる。
「ん、朝か……」
調べ物をしてる間にいつの間にか眠ってしまったらしい。あたりには開いたままの資料が乱雑に散らばっている。それらをおもむろにかき集めながら、未だはっきりとしない思考回路が昨晩の事柄を思い出す。
「コアの出現、ねぇ」
本来の秩序の中ではあり得ないことが起き始めている。そしてこの事実は一つの記憶に行きつくのである。手遅れになる前に何とかしなくては。
大きく伸びをして深呼吸をする。埃っぽい空気が肺の中に満ちてゆく。
「メル」
名前を呼ぶ。
すると、呼応するように小さな天使が姿を現す。
「ん?なあに」
人の顔程度の大きさに純白の羽根。どこか神秘的な空気さえまとった少女はくるりとまわり微笑む。
「何って、分かってるくせに」
「まあね」
悪戯に口角を上げて、天使―メルベルはレオの表情を窺う。
眩しさに目を細めながらどこか含んだ笑みをうかべる。窓の外、光さす世界を見つめておもむろに言葉を紡ぐ。
「やっぱり、避けられない運命なのかねぇ」
その言葉の真意を知ってか、天使は傍らで小さく応えた。
「わからない、ただ。……この先に、光あらんことを」
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「おはようございます」
明朝七時。朝もやの中に声が響く。
「おはよう、リイラ」
出発時刻が近づくなか、古城の門の前に人影がならんでいる。
「いよいよ任務ですね。昨晩はよく休めましたか?」
「おかげさまで」
軽い挨拶もほどほどに、早速出発をする。目指すは国境の町グレンツェ。ここで情報屋から話を聞く。ベルザークへの入国はそれからだ。
森を抜けるにつれ、もやがかった視界が明瞭なものになってくる。それにつれ、視界の先に影が見える。大きな影ははじめ何のものか分かり得なかったが、やがてそれが馬車のものであることが分かった。馬車の隣にたたずむ騎手の姿を確認するとリイラが口を開いた。
「駅がある町までは馬車で移動します」
馬車に乗り込むと、馬の鳴き声とともに車体が揺れ始める。一定のリズムと足音を刻んで、馬車は進んでいく。
「それにしても、本部の場所は移動に不便だよね」
馬車の振動が座席から体に伝わる。狭い車内で慣性のまま体を揺らし、ディーナは小さく不満をこぼす。
「まあ。そうですよね。せめて近くに駅くらいあればよかったんですが」
膝上で任務に関する資料を広げ、それに目を通していたリイラが苦笑する。
仕事上長距離の移動をすることが少なくないのだが、森の中という立地上その手段は限られたものになってくる。そのうえ、手配も楽ではない。
「一人ならすぐ飛んでいける」
小さな窓の縁に片肘をついて、迷惑そうにディルは呟く。風を操れる彼の能力ならば遠方への移動も容易いものであるが、人数が多い任務ではそうもいかない。それが何よりも不満であるようで抑揚のない声からも期限の悪さがうかがえる。
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