森の古城と仲間たち11
一人残されたリイラは、先ほどと同様に薬品を選びに取り掛かる。しばらくして、二人が出て行った扉がコンコンと音を立てる。「はい」と小さく返事を返すと、ガラリという音とともに人影が入ってくる。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様。明日の準備かい?」
「はい。ダズさんはどうしたんです」
医務室に入るなり、小型のトランクを開く。医療品の一式が装備されたその中に、新たに薬品を詰めながらダズは応じる。
「俺も明日から遠出の仕事なんだ。しばらく帰ってこれないから医薬品をたくさん用意しておこうと思ってね」
「そうなんですか。がんばってくださいね」
「ああ、リイラもね。国境辺りは最近治安が良くないと聞いたから、気をつけて。あ、鎮痛剤はこっちの方が即効性があってお勧めだよ。それじゃあ」
手早く準備を整えると、足早にダズは部屋を出ていく。
勧められた薬品を鞄に詰め。リイラは明日からの任務に胸に迫るような緊張感を覚えるのであった。
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薄暗い部屋を、小さなランプがぼんやりと照らしている。窓際に置かれた小さな棚と一人用の簡易ベッドそれ以外には何もない、殺風景な部屋の中。少年はひとり、壁際にもたれるようにしてベッドに座り込む。
特に何処を見るでもなく、虚空を見つめる。空虚な世界だけが揺れる光の中で広がっていた。ディルは、少しの間目をつむる。明日からはまた任務が始まる。なんてことはない。ただ全てを利用すれば良いだけだ。
おもむろに服を脱ぎ捨てると、血のにじんだ包帯が露わになる。白い布の中に鮮やかに浮き上がる赤を眺める。
要らぬ世話だ。これを巻いた少年の笑顔が脳裏に浮かぶ。それを拭い去るように、勢いよく包帯を外していく。ぱさり、小さく空を振るわせて布が落ちる。血の色が滲んでいたその場所には、何も残っていなかった。
ゆっくりとした動作で腰を上げると、ベッドの軋む音がする。古びた包帯をごみ箱へと捨て、何事もなかったように服を着る。
さて――、窓の外を見る。薄暗い森の中で見える景色は鬱蒼とした木々だけで、日の沈んだこの時間は灰色の世界しか映さない。
何をするわけでもなくそんな景色を眺めていると、ふとホドリ村でのことを思い出す。あの時に感じたあの『気配』は一体何であったのか。引き合うような、不思議な感覚。その正体も原因も分からないままだ。
そして何より、ベルトとマーダリカ。二人を結ぶ絆、家族という名のそれが自分には理解し難いものであった。自身の身を顧みず飛び出していくような愚かな行為が、どうして他者のためにできようか。あの少年が飛び出して行った理由も、そして自分が彼を助けた理由も、分からないのだ。
信頼、絆、生きるためにそんなものは無用だろう?他者なんて、己が生き残るために利用すればいい、それだけの存在であるはずだ。それなのに。
「………」
そんなこと、くだらないこと、考えていても仕方がない。
明日は早い。今はもう、眠って体を休めることが得策だろう。ベッドに体を横たえ、視界を遮断する。
俺が信じる者は、己だけで十分だ。心を赦せば食い潰される。ならば、何も信じなくていい。そんなものは要らない。必要ないのだ―――
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