森の古城と仲間たち8
白を基調とした衛生的な空間。さまざまな用途によってきちんと並べられた薬品たちが独特のにおいを放っている。薄桃色のカーテンと真白なシーツに身を包んだベッドが整然としている。医務室の名にふさわしいその一室に少女はいた。薬品の瓶を注意深く見詰め、必要とみなしたものを鞄の中へと詰めていく。
ノックの音、続いてガラ、と扉の開く音。誰かが入ってきたようだ。少女は反所的にそちらの方向に瞳を向けた。
「リイラ!」
「ディーナ!帰ってきたと聞いていました。お帰りなさい」
目的の少女をやっと見つけて、ディーナは安堵する。自分が探されていたことなぞつゆ知らず、リイラは無垢な微笑みをうかべている。
「よかった。リイラ、会いたかったの」
そう言うディーナの後ろから、無表情の中にほんの少しの苛立ちを混ぜた顔のディルがに入室してくる。
「私に、ですか?」
きょとん、と首をかしげリイラはディーナの蒼い瞳を見つめる。
「明日からの任務で一緒でしょ。だから顔合わせしておきたいなぁと思って」
リイラの手に握られている薬品へと目が行く。真新しいラベルには消毒薬と書かれている。
「それ、もしかして明日の準備?」
「はい。明日に向けて、備えは十分にしておこうと思いまして」
「さすがリイラ!」
「いえ」
ほんのり頬を赤らめて微笑むリイラ。任務に怪我は付き物だ。回復の術を持つディーナでも、治癒しきれないことは少なくない。そんなときに医学の力は不可欠なものになる。前回の任務でも、マーダリカやベルトのような薬師の存在は大きなものであった。
「……で、明日の任務について話し合うんだろ?早くしろ」
後ろから、壁に体を預けて腕を組むディルの不機嫌な声が響く。無理を言って連れまわしたのだ、早く本題に入るべきだろう。ディーナは話を改める。
「そうだね。リイラ、明日の任務についての話なんだけれど」
「はい。ベルザークへの潜入、および視察任務ですね。資料は読みましたか?」
「さっとはね。詳しくはまだ見てないよ」
「では、簡単に。まず国境の町『グレンツェ』へと向かいます。そこで情報屋さんから潜入ルートを聞きます。あとはその手順に従ってベルザークへ入国、情報収集、です」
「ふんふん。完璧だね」
資料の内容を的確に理解し、覚えているリイラに心底感心する。
いえいえ、と謙遜するとリイラは不安げに表情を曇らす。
「ですが、資料だけを見て上手くいく任務ではないようです。情報屋がどのような情報をくれるか分からないですし、国境付近は情勢が不安定です。どんなトラブルが起きるかも分かりません」
「だね。慎重に行くしかなさそうだ」
レオの言葉を思い出す。どこが簡単な任務だ。心中で悪態をつく。
ディルも同様に感じたようで、小さく愚痴をもらすのが聞こえた。
「まあ、とにかく慎重に、臨機応変に、だろ。めんどくさい仕事だ、まったく」
「ほんとにね。連続任務にしてはハードル高いよなぁ」
「私もできる限りのサポートをします。がんばっていきましょう」
苦笑するディーナをリイラが小さく拳を固めて激励する。
「そうだね」
笑みを返して応える。それとほぼ同時にガラリ、と扉が開く。
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