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森の古城と仲間たち1
首都から幾分離れたとある小さな町。四方に広がるこの国の東部に位置するその町は、規模は小さいものの、十分なにぎわいと穏やかに暮らす人々の調和がとれた住みよい所ではあると思う。

「先生、さようなら!」

「はい、さようなら。お大事にね」

一日の診療を終え、本日最後の患者である子どもの笑顔を見送る。隣にいる母親に手をひかれて歩く様子をほほえましく思いながら、仕事を終えた解放感にほっと息を吐く。町外れの小さな診療所。小規模であまり目立つようなものはないが、ここは自分の大切な場所である。青年は着ていた白衣を掛けると、手早く帰り支度をすませ診療所を後にする。

しっかりと施錠を確認し、帰路への足取りを進めようと前を向く。そしてふと、かけている眼鏡のレンズ越しの見慣れた人影に気がついた。


ホドリ村での任務を終え、二人はハンターの本部のある最寄りの町まで来ていた。小さいが活気にあふれた町で、楽しそうな声があたりから聞こえてくる。中心部である通りを横切り、脇道から町のはずれへと出る。

「おーい。ディーナ、ディル!」

突然の呼び声にそちらを向くと、そこには一人の青年。首元に手縫いのマフラーを巻き、人当たりのよさそうな笑顔が眼鏡のレンズの奥からのぞく。彼は二人のよく知る人物であった。

「ダズ!」

思わぬ出会いに驚きの色を混ぜながら、ディーナは青年の名前を口にする。ダズと呼ばれた青年は「やあ」と軽く挨拶を混ぜながら二人のもとへやってくる。

「聞いたよ。任務だったんだってね。お疲れ様。そしておかえり」

にこりと笑顔を浮かべるダズに、ディーナも同様にして返す。

「ただいま。ダズは仕事?」

「うん。ついさっきまで診察の時間だったんだ。今日は早めに切り上げなんだけどね」

「そうかぁ。ダズもお疲れ様」

ダズは二人と同様、ハンターの仲間だ。同じように任務をこなしているが、その傍らで医者として診療所を構えている。ディーナたちとそう年齢は変わらないながらも、医者としての知識、技量はなかなかのもののようで町の人たちからも慕われていると聞く。
彼の診療所はもともとこの町にいた医者が使っていたもので、首都へ働きに行ってしまった彼の代わりに町の医者としてその場所を預かっているらしい。

「二人は今から本部へ帰るんだろう?俺も帰るから、一緒にいかないか」

「うん、いいよ。行こう」

「ありがとう。っと、ディルは相変わらずだな」

一連の会話の中でも、我関せずのその様子にダズは苦笑する。他者を寄せ付けないその態度には彼も慣れているようで、さほど気にしている素振りはみせないが。

「別にいいだろ。行く先が一緒なら勝手についてくればいい」

「はは、そうさせてもらうよ」

そう軽く笑うと、ダズを含めた三人は本部へ向けて歩きだす。


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