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移ろいゆく日常15

ドアを開き、割られた窓が位置する部屋へと急ぐ。ひび割れた壁、散乱する家具。荒らされてしまった生活の場に目をつむりたくなる。
ぐちゃぐちゃになった部屋の奥にマーダリカの姿が見えた。猛獣に囲まれてはいるものの無事なようだ。

「母さん!」

母の姿に安堵したベルトは思わず声を上げる。

「来るんじゃないよ!」

その声からベルトたちの存在に気付いたマーダリカは、息子を危険に近づけまいと叫ぶ。彼女は手にした箒を巧みに振り回しながら数体の猛獣を相手に応戦する。鋭い爪の一撃を箒の柄で防ぐと、そのままその先端を向け突きをくりだし応戦する。

しかし一般人であるマーダリカはその力も体力も猛獣たちには及ばない。一瞬の気の緩みをつかれ、その手から箒が跳ね飛ばされる。

まずい――。

なす術を失ったマーダリカ。その瞬間彼女の周囲を囲むように風の壁が形成される。竜巻のように渦を巻く、高密度で圧縮された風が猛獣の接近を許さない。
ディルの生み出した鉄壁の防壁に気を取られている猛獣たち。その額をディーナの放つ光の弾丸が貫通する。脳漿と血液をぶちまけ、絶命したその巨体が崩れ落ちていく。

驚くほど鮮やかに、猛獣たちを狩っていく。その姿はハンターという名そのものであった。出来るだけふたりの邪魔にならないように距離をとりながら戦いを見守っていたベルトは、こんなときに不謹慎ではあることを自覚しながら、自身の心が感動に踊るのを感じた。

最後の一体に風の刃と銃弾が突き刺さる。
断末魔とともに倒れる猛獣。同時にその体内にあった赤い塊が爆ぜる。砕け散ったかけらは空中に霧散し、そして砂のように崩れ落ち消えていった。
それと同時に今まで斃した猛獣の肉体も砂のようにかたちを失い、消えてしまった。

「何?」


突然消えた猛獣にふたりは驚きの表情を現す。一体何が起こったのか、分かりかねずに困惑する。

「……気配が消えた」

同時に猛獣たちが纏っていた気配さえも消え、そこには荒らされた形跡のみが残った。

「今の、何だったんだろう。赤い結晶みたいなの」

「わからない。だが……」

険しさを表情に浮かべ、ディルは言葉を詰まらせる。

「どうしたの?」

「いや、何でもない。」

首を横に振ると、難しい顔で黙り込む。何かを考えているようだが、ディーナは特に追及することはせずに、その横顔を見つめた。

「母さん。大丈夫!?」

難を逃れたマーダリカにベルトが急いで駆け寄った。
不安げなベルトに笑顔を返すと、手のひらをひらひらと仰ぎ「大丈夫だよ」と力強く伝える。


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あきゅろす。
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