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移ろいゆく日常12

木々の合間から陽光が差し込む。昼間の森の中は陰鬱とした昨日の様子と打って変わって明るくさわやかな雰囲気に包まれていた。
整備された一本道をさかのぼるように進んで行く。ディルは猛獣との遭遇場所を目指しながら、森の中に異変がないか確認しながら慎重に進む。

やはり、ひとりの方が落ち着く。誰かとともにすごすことの煩わしさと、あの息の詰まるような閉塞感から解放されて少しばかり気分が良い。

――この世界において、信用できるものなど存在しない。
それが彼の信条であった。物心がついたときから、正確には彼の記憶の最初の瞬間から、無意識のうちに他人を信じることを拒んでいた。
ディル・リルドには過去の記憶がない。ディーナと出会い、彼女に助けられる以前の記憶が存在しないのである。傷だらけで倒れていた彼には、自分の名前以外の情報が失われていた。そしてただ漠然と、『誰かを信用してはいけない』という考えだけが存在していた。
記憶のない自分にとって、頼れるものは自分だけだ。
己がそう思うのならそれが全て、それが唯一の正義だ。
何故『信じてはいけない』のか、そう思うのか。そんなことはどうでもよかった。そう思うのだからそれに従うまでだ。
誰一人として信用できない世界で、誰かと生きることなんて苦痛でしかないのだ。
それでも、生きるためには関わりを絶つことはできない。故に彼ははじめに出会った少女と、その仲間を利用することに決めた。それが彼が生きる上での最善の策であるから。


森の中の様子は至って普通であった。ときおり小鳥のさえずりや小動物が草を揺らすおとが聞こえてくるだけで、静かな森の中には荒らされた様子すらない。
小道を外れ、生い茂る木々の隙間を縫うように進む。しばらく行くと開けた場所にたどり着いた。昨日猛獣との戦いをした目的の場所だ。
その場所には無残に散った猛獣の残骸が昨日の状態のまま転がっている。
はずだった。

――おかしい。

しかし、そこには何も残ってなどいなかったのだ。死骸はおろか、戦いの爪痕さえも。

――何故だ?あれほどの巨体が一晩で跡形もなくなるなんてことは考えられない。それに、『気配』がない。

ディルは昨晩のあの猛獣から、引き付けられるような異様な『気配』を感じていた。それゆえにあの猛獣を発見できたのだ。その気配は斃した後の肢体からも感じられたのだが、今はそれすらも感じられない。

ベルトの話によれば村を荒らす化け物は一体だけではないらしい。だが森の様子を見てもそのような存在は見当たらない。森の中は平和そのものであり、異変が起きているとはどうみても考えられないほどだ。
一度村に戻って情報を整理するべきだろうか。

日差しももう斜陽へと変わりつつあり、夕刻まであとわずかだろう。
ディルは村へ戻ろうと、来た道を引き返す。

その姿を見つめる一つの人影に気付かずに。




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あきゅろす。
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