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解き明かす、光13

「そう言えば、傷は治ったみたいだね」

「傷?」

 いわれて気付く。ジオに先程つけられた傷のことだ。流れていた血は止まり、話を聞いている間に傷もすっかり癒えていた。

「この傷をつけたのがコアの力か」

「そうだよ、僕からの注意喚起だ」

 注意喚起。言葉の通り気を引く為か、ジオは指を立てた。

「君のコアの力は確かに、他にコアを持つ生命体よりはるかに強い。けれど、こうやって干渉する力が存在する。君はけして無敵ではない。コアを壊されれば君だって死ぬんだ。あの小石のように、ただの灰となってね」

 射抜くようなジオの視線にぞくりと寒気がする。コアを破壊された獣は死体すら残らず消えた。それは自分にもいえることなのだ。

「コアの力は強大だ。だけど、それを過信すれば簡単に足下を掬われてしまうよ。いつまでも力を持て余して、足踏みをしている時間はないんだ。君は一刻も早くその力を理解して、きちんと戦えるようにならなければならないよ」

 そんなことは言われなくてもわかっている。
 思うように力を使えさえすれば、こんなところで奇妙な研究者たちに遊ばれることもないのだ。
 それに、外の状況がどうなっているのか分からない。本来ならば味方であるはずのベルザークのハンターがこちらに刃を向けているのだ。ダズにも危害を加えていた様子を考えれば、その敵意の対象が自分だけでなくザルカンタのハンター全体に及んでいることも十分考えられる。
 一刻も早く戦う力を取り戻して城へと戻らなければ。そう思うと、背筋に力が入るようだった。

「どうやら、やるきはあるようだね」

 目に見える変化としては微かであったそれを目敏く察知したのだろう。なら安心したよ、そう言うジオの声にはどこかからかうような含みがある。

「まあ、そうでなくては問題外だけど」

 ぽつりと呟く。

「うるせえよ、そう言うんならさっさと教えろ」

「態度が悪い。人に物を請うときの礼節は教わらなかったの?」

 いちいち人の神経を逆なでするのが趣味なのだろうか。
 こちらだって好きで頼んでいる訳ではないというのに。怒りをぐっとこらえて、ディルは唸るような声で言う。

「……そういう条件だろうが。いちいち突っかかるな」

「まあそうだね。でも、やだ。教えてあげない」

「なっ」

「今日は、ね。僕だって暇じゃないんだ。君は大切な検体だけど、君にばかり掛かり切りになるわけにもいかないんだ。君から得た情報に対しての説明はしたでしょ。今日はもうそれでおしまい。また明日ね」

「……てめえ」

 予想外の返答に何も言葉がでない。ここまで言っておいて普通は拒否しないだろう。怒る気力すらそがれてしまった。

「安心して、明日からはもっと大変な思いをするんだから。身体を休ませる時間があることを感謝した方がいいよ」

 そう言ってジオは不敵に笑う。
 ジオの言動はいちいち自分を試すような物ばかりで、そのたびに物差しで測られているような気分になって面白くはない。だが、それもこの数時間ですっかり慣れてきてしまった。

「わかったよ。明日、だな」

 不本意ではあるが、彼がそう言うのならば仕方がない。何もせずに明日を待つだけというのは落ち着かないが、それが最短の道だと思って我慢するしかない。
 コアのこと、己のこと、なんとなくだが理解した。あとはこの力を理解して、以前のように戦う術を取り戻すだけだ。
 目の前の道を進むしかない。たとえ何が待ち受けていようとも。


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あきゅろす。
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