解き明かす、光５
「その力を僕に見せて。君という存在のすべてを、計らせてちょうだい」
弓がしなり、矢が放たれる。
ジオは地面を蹴り、急速にこちらへと距離を詰める。
ディルの眼前へと迫ると、容赦なく右腕を振り払った。ひゅ、鼻先をかすめ乾いた空気の音が鳴る。
反射的に身を反らして避けたものの、目の前に突如として現れた刃にディルは困惑する。ジオは武器らしい物を手にしていなかったはずだ。だが、今振るわれた一撃は確かに研ぎ澄まされた得物によるもの。
「うん、まあこれくらいは避けてくれなくちゃね」
「いきなりどういうつもりだ」
「そのくらい自分で考えなよ」
いささか不満げに唇をとがらせて、ジオは再びこちらへと迫る。何もなかったはずの袖口から、小剣ほどの大きさの刃が覗いている。
殺意や敵意は感じられない。だが、はっきりとした驚異としてディルは目の前の存在を認識した。牽制でもなんでもない、ジオは本気で切りかかってきた。
まさか、身を守ると約束したはずの人間がこんなにも早くそれを裏切ってくるとは。信用できないとは思っていたが、こうも期待を裏切らぬ行動をされると逆に予想外である。
かすかな困惑、それは疲弊したディルの反応を鈍らせるには十分すぎるほどだった。小柄な身体を活かした素早い動きに翻弄され、振りかざされる刃に一瞬対応が遅れる。その隙をジオは容赦なくついてくる。
腕を振りきった回転力をいかし、そのまま回し蹴りが飛んでくる。腕を盾に受け止める。それほど重みはない一撃だが、そこに気を取られているとすぐにまた刃が飛んでくる。身軽な身体から繰り出される攻撃は予想以上に素早く。インドアの科学者相手だと思うと痛い目を見る。
「ほら、気を緩める暇はないよ」
「くっ」
ひゅん。紙一重で刀を躱し続ける。
切りつけた後、一度距離を置き、再び間合いを詰める。ヒットアンドアウェイ。息つく隙を与えない連撃といえど、戦法は単純だ。二度三度と繰り返された太刀筋に次第に身体も慣れてくる。
再びジオが距離をとる。それからすぐに身を屈め、懐に潜り込んでくる。次に来るのは一気に間合いを詰めてからの一閃。同じ手は何度も喰らわない。一閃を躱し、そこから反撃に転じる――、
「！？」
穿つ一撃。完全に読んでいたはずの間合いを大きく越えて、ジオの攻撃が伸びた。眼球へと飛び込んできたそれをすんでの所で身を捻り、しかし完全には避けきれず、皮膚を裂かれる鋭い痛みが走る。
「く、そ……投げ道具かよ」
あふれ出た血が滴り、研究室の床に落ちる。
深く裂かれた傷は目尻から耳にかけてはしり、じくじくと熱と痛みを放つ。しかしそれは直ぐに癒え、傷跡すら残らない。
「なるほど、それが再生能力か。確かにコアの反応と相違ない。痛みはあるのかい？」
先ほど投擲したものと同じ、裁断用の鋏をくるくると右手で弄びながら、ジオは飄々として問いかける。
「……多少は」
「なるほど。じゃあ、これはどう？」
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