解き明かす、光4
◆
数時間後。
ルーラに連れられて、ディルはジオの研究室へと戻った。長きにわたる拘束によってその顔色にははっきりと疲労が滲んでいる。
開いたドアの奥から、椅子に座ったままのジオが出迎えた。
「お疲れさま。兵器といえど、検査による疲労は蓄積するんだね。面白いな」
「面白がってんじゃねえよ……」
「ジオさん、少し休ませてあげてください。ソルアにだいぶ血を抜かれたみたいだから。本当、子供相手にも容赦ない」
「わかった。後は俺があずかるから、ルーラは下がって。あとでデータ頂戴」
「はい」
軽く頭を下げ、ルーラが退室する。
「知的好奇心が爆発するとソルアは手が着けられなくなるから。大変だったね」
「よく言うな。こうなるとわかっていただろうが」
「まあね。検体になるってこういうことだもの。諦めてね」
「……」
諦めろ、簡単に言ってくれるものだ。胸中に毒がわき上がる。だが、文句を言うのも疲れてしまった。舌打ちの代わりにため息をつく。
ソルアの検査はひどいものだった。思い出すだけで胃の中が焼け付く。メスで腹こそ開かれなかったものの。唾液や血液、皮膚の細胞から髪の毛まで、あらゆるものをサンプルとして要求され、検査と称して様々な刺激を立て続けに受けるという拷問に近いものだった。傷は再生するといっても、苦痛は伴うのだ。しばらく彼女の顔は見たくない。
対照的に、ルーラはこちらを人間として扱おうという優しさがあった。差し出されたコーヒーなどけして飲めるような状態になかったが、検査もソルアのものとは違い簡単なものだった。十分すぎるほどのサンプルを取り終えていたからだろうか。
「休憩は必要かい?」
手に持ったカップを口に運んで、ジオは悠然とした口調で問う。
「……今度はおまえの番って事か。必要ない」
「そう、じゃあ先に言っておくね。僕は二人みたいに甘くないよ?」
おもむろにジオが立ち上がる。ガチャリ。背後で鍵の閉まる音が聞こえた。
「君はネオによって生み出された兵器。人間の形をし、意志も、感情もある。間違いないね?」
「……ああ」
「こうやって目の当たりにしても実感がわかないよ。君という存在は現代の科学技術において不可能とされている未知の到達点なのだから。大佐は君がコアを宿していると言っていたけれど、それは本当かい?」
「本当だ……と思う。実際見た訳ではないが、あいつはそう言っていた。それに、今まで見てきた有核生命と同じように、どんな傷を負ってもすぐに再生する」
「ふうん、ますます不可解だ」
ジオはじっとディルを見る。初めて対峙したときと同じ、すべてを見透かし暴き出そうとする観察者の眼。
「まあいいや、実際に見てみればわかることだし。そうするつもりだったしね」
ふう、と一つ息を吐いて、ジオは大きく伸びをした。
纏う空気がはっきりと変わる。ゆるりとしたけだるさを残しながらも、ゆっくりと弓を引き、弦が張りつめられていくような。じりじりと心臓を焦がす緊張感が満ちていく。
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