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解き明かす、光1

 ◆


 昇降機の扉が開く。
 閉息的な空間が一気に開け、視界いっぱいに光が広がる。
 飛び込んでくるのは騒がしく鼓膜へ伝わる人の声。鼻にかかるつんとした薬剤のにおい。
 軍の基地、その地下深くに広がる、巨大な研究施設。国中の天才たちが集められ、日進月歩の技術革新が行われる場所であり。ザルカンタのより豊かな発展と屈強な力を生み出すため、科学技術の粋を極めた最先端の機関だ。
 科学の発展なくして、国の発展など起こりえない。ここから生まれた発見が、世界へと伝播し、人々の営みを豊かにする。いわばこの場所は国の未来を担う要であり、どんな宝よりも価値のある、叡智の結晶なのである。

 多くの研究者たちがせわしなく動き回り、議論や研究に熱を注いでいる。雑然としているが開放的で活気にあふれ、かつて見た軍の研究施設の閉鎖的で鬱蒼とした印象とは真逆の印象を抱かせる。
 見上げた遙か上空に天井がみえた。地下一体が吹き抜けのような構造になっており、その中心を上下に昇降機が貫いている。この昇降機だけが、地上と地下とを結ぶ結い一つの道となっているのだろう。
 柱のようにそびえる昇降機を中心に、研究施設は円状に広がっていた。様々な研究内容ごとに研究室が分けられており、見慣れない言葉の書かれたプレートを掲げた部屋が
並んでいる。

「さ、ついてきて」

 あたりを注意深く見回していると、ジオが施設を横切って進んでいく 
 ティズイヴは昇降機を降りずに、自分の持ち場へと戻っていった。最後まで心配そうにこちらを気にしていたようだった。
 ここからはジオに従うほかないのだろう。彼の後をついて歩く。
 昇降機のエリアから離れ、細い廊下を進んでいく。辺りは次第に薄暗くなり、人の声も聞こえなくなっていく。二人分の足音だけが静寂に反響する。
 しばらくして、最奥へとたどり着いた。堅く閉ざされた扉が、ジオのすがたを感知するなりゆっくりと開く。
 生活感のない殺風景な部屋。多くの医薬品や試験管が並べられた黒い天板の研究専用の机と、人一人が寝そべるのにちょうどいい大きさの簡易ベッド。壁に沿うように置かれた大きな本棚には、難解な文字列が刻まれた分厚い本がびっしりとならんでいる。

「ここが僕の研究室なんだ。他にも部屋はあるけど仮眠室も兼ねてるから、ここを使うことが一番多い。基本的に余計な人間は近づいてこないから、研究するにはもってこいの場所なんだよね」

 独り言のように呟くと、コンコンとノックの音が聞こえてくる。

「どうぞ」

 ジオの声に答えるようにドアが開く。現れたのは二人の人間だった。
 ウェーブのかかった金髪にめがねをかけた華奢な女性と、対照的な黒い髪を独特のアシンメトリーにした背の高い細身の男性。二人ともジオと同じように白衣を着用し、首から下げられたタグには『科学班』の文字。

「紹介するね、僕の部下」

「ソルア・ソトンです」

 金髪の女がにこやかに。

「ルーラ・ヴェルアだ」

 黒髪の男が緊張した面もちで名乗る。
 また余計な人間が増えた。信用も何もあったものではない。ディルは警戒を露わに、彼らの顔を睨んだ。
 男の方はびくりと身を竦めたが、女の方はまったく動じる気配はない。気にすることなく、ジオと会話を進めている。


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