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エスケイプ アンド ハイド10

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 地下通路の果て、地上へと向かう長い階段を登りきった先には古びた鉄の扉が待ちかまえていた。錆び付き古びているものの、これまでの赤茶けた石作りの様相とは打って変わったその銀色は意識せずとも目に留まる。
 この扉の先は軍の基地の真っ直中。そう思うと否応にも意識が引き締まる。
 ティズイヴが静かに扉を開く。じめじめとした地下の空気が、古びた紙の匂いが混じった埃っぽい空気へと変わる。その先に広がる風景は思い描いていた軍の光景とは全くと言って良いほど違っていた。薄暗い部屋の中に、所狭しと使われなくなった道具や分厚い蔵書が置かれている。ティズイヴがつけた小さな蝋燭以外に周囲を照らす光はなく、ゆらゆら揺れる陰が映し出す輪郭は乱雑としていて、並べられているというよりは放置されていると形容した方が正しい。

「ここは古ーい資料とか、もう使わない昔の武器とか装置とかが置いてある倉庫なんだ。捨てるのも勿体ないから、とりあえず取っておこうっていうものの積み重なったなれの果てだな。見ての通り、普段から人っ子一人来やしない」

 軍の中枢、というから身構えていたものの。人一人いない殺伐とした光景に拍子抜けする。ディルはちいさくため息をついて進む先を確かめる。足の踏み場もない、とはまさにこのことだ。壁に据え置かれた棚から溢れ、ひっくり返った本やら何やらが床一面を覆い尽くすほどで。気をつけて進まないと踏んでしまいそうになる。レオの部屋も相当だが、ここはそれすら可愛く見える。

「こっちだ」

 ティズイヴの声を追って部屋を脱すると、今度は一気に天井が高くなる。天井まで届く大きな本棚が横一列にずらりと並べられており、相変わらす薄暗い空間が広がっていた。部屋の規模の割に蛍光灯が小さすぎるせいだろうか。遙か上空で、ぼんやりとした光を放っている。人が利用することよりも書庫を貯蔵することを優先したのだろう。先ほどよりも遙かに広いはずの空間のはずが、よけいに閉塞感を植え付けられる。

「ここもいろんな物を保管する資料庫なんだが、さっきと一緒だ。用事がなければ誰も立ち寄らないし、立ち寄るような用事もそうそうないな」

埃っぽくじめじめとした空間は不快感を抱かせ、薄暗さやひっそりとした静けさは不気味さを感じさせる。なるほど、何かを隠すにはうってつけの場所だ。奥深くに存在する地下通路へと通じる扉など、誰一人見つけようとは思わないだろう。

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