移ろいゆく日常10
正午の日差しが真上から照りつける。それほど熱くはないものの、眩しさに目がくらむ。
村長の家を出たディーナとディルは先程別れたベルトと村の広場にて合流した。
「村長の話、どうでしたか?」
降りそそぐ日差しを手のひらで遮りながら、ベルトが尋ねる。その表情は心なしか疲れているようにも見える。
「やっぱり、昨日会った猛獣のことで依頼をくれたみたい。村でも大小の被害があったみたいだよ。一応倒しはしたけど、まだ安全と決まったわけじゃないからしばらくは様子見ってことになったよ」
「そうなんですか。俺もさっき聞いたんですけど、村の人たちにとっての化け物って昨日の化け物とは違うみたいです」
「それって本当!?」
「はい。特徴が全くちがうんです。俺があったのは熊とかの肉食で獰猛なやつだったじゃないですか。でも、聞いた話だと村に現れたのはシカとか兎の草食動物みたいなやつだそうです」
「そうかぁ……。やっぱ昨日のだけで解決はしないか。村の人たちに話を聞いてみるのが早いかな」
やはり事件は簡単には解決してくれなさそうだ。村の人から情報が得られるならば、それが一番手っ取り早い。
「そうですね。俺も聞き込み協力します!」
「ありがとう。助かるよ」
村の人に聞き込みをするうえで村人であるベルトが協力してくれることは心強い。
「なら、俺は森へ行く」
「森?」
「ああ。昨日の残骸をもう一度調べてくる。暗がりで見落としてたものがあるかもしれない。それに、まだ奴らの仲間がいるかもしれないしな」
眩しさに目を細めながら淡々とそう告げると、聞き込みへ向かう二人とは別方向である村の入口へと歩き出すディル。
「ちょ、ひとりで行くのかよ。危ないかもしれないし……」
いくらハンターであるとはいえ、どれほどの危険が潜むかもわからない森の中へ単独行くことはさすがに心配だ。ベルトは慌てて彼を引き留めようと手を伸ばす。
「うるさい。お前には関係ないだろう。心配なんてされたくない」
伸ばされた手を払いのけて、零度の視線をベルトへと向ける。
「……!」
その先のベルトは一瞬びくりと身体を震わせ、そしてなにか言いたげなむっとした面持ちだけをディルへと返す。
「わかった。それじゃあ、夕方にはここに戻ってきてね」
ディーナはベルトを庇うように前に出ると、仕方ないといった様子で間を取り持つ。
ディルは何も言わずに踵を返すと、そのまま行ってしまった。
「気をつけて」
そうとだけ告げて、ディーナは返事のないその背中を見送った。
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