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エスケイプ アンド ハイド5
「別に……」

 包み込む温かさが心地よく、どうにもむず痒い。居心地の悪さにディルはふいと目線をそらして、ティズイヴ掌を払いのけた。

 しかしそれがさらに親心とやらをくすぐったらしい。ティズイヴはいたずらに瞳を細めると、今度はさらに強い力でディルの頭をぐしぐし撫でる。

「や、め、ろ」

 調子に乗るな、そう瞳で訴えながらディルは先ほど以上の力でティズイヴの手をおしのける。

「馬鹿じゃないのか。レオから事情を聞いたんだろう。なら、どうして俺への態度を改めない。俺はおまえたちとは違う。人間でなく、兵器なのだから」

「馬鹿はお前だ」

 ティズイヴはディルの額を小突く。

「お前がなんだって構わないさ。俺にとってお前は大事な息子。家族なんだ。何があったって変わらないよ。だからそんな悲しいこと言うんじゃない」

 声色は優しいままで、されど声は力強く、ディルの肩を叩く。まさに親が子を窘めるように。迷いなくディルという存在を肯定する。

 張りつめた緊張が解け、肩の力が抜けていく。そうしてどこか柔らかくなったディルの表情を見て、ティズイヴは安心したように口元を綻ばせた。

「さて、ここに長く留まってるわけにもいかない。行くとするか」

「行くって、どこへ?」

 そもそも、ここはどこなのだろう。日の光の届かない、閉ざされた空間。

 風を感じない空気は淀み、じめじめと湿った土のにおいが満ちる。蝋燭の明かりが灯るだけの薄暗い通路。よくみるとその壁は積み上げられた石で覆われており。ところどころ苔むしている。人工的に造られ、かなりの年月が経過しているようだ。

「ここは旧王都の地下だ」

「旧王都?」

 旧王都とは、現在の国の中心である中央都市から少し離れた場所にある旧市街の跡地である。かつて暮らしていたであろう人々の生活の名残が刻まれた、文化的にも貴重な遺産として有名である。しかし、多くの研究者たちが派遣されているにも関わらず、その知名度の割には解き明かされていない謎が多い。

 それはともかくとして。ここが旧王都だというのなら、辻褄が合わない。ディルは先ほどまで北部支部の管轄地にある雪国にいたのだ。そこからこの遺跡にたどり着くまで、少なくとも半日近い移動時間を要するはずだ。

「そんな不思議なもんでもないだろう。俺の力だよ。お前を助けたあの場所から、この遺跡までを繋いだんだ」

 なるほど、それならば合点が行く。ティズイヴの持つ能力『点と点を繋ぐ(アヴェンステラーロ)』は空間と空間を瞬時に行き来することができる。基点となる場所に赴き、あらかじめポイントを作っておく必要があるが、それさえすればポイント同士をつないで瞬時に移動することが可能という便利な力だ。


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