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エスケイプ アンド ハイド4
 口をついだ言葉を男は指先で押しとどめる。

「説明は後だ。まずはこの場を切り抜けないとな」

 すると男はディルの身体をひょいとかつぎあげ??

「この勝負、俺が預かった!」

 声高に告げる。

「!?」

 宙に浮いた己の身体にディルは思わず表情を歪ませた。怒濤の出来事に理解が追いつかない。

「逃がすと思うか?」

 すかさずライトがナイフを投げる。

「逃がされないと思うか?」

 それを易々と払いのけて、男はにやりと笑う。

 男は何かを地面へと投げつけた。すさまじい閃光と耳をつんざく不快な高音が炸裂し、一瞬で周囲一体を埋め尽くす。誰もがその視界を白色に奪われ、眩暈を呼ぶ音波感覚を乱される。

 五感を眩ませる光が収束した時には、男とディルは忽然と姿を消していたのだった。


 ◆


「さて、と。ここまでくればあいつ等も追ってこれないだろう」

 追跡者の影が見受けられないことを確認して、男は担いでいたディルを解放する。卸されたディルは未だ不服さを顔色に織り交ぜながら、自らを助けた男を仰ぎ見た。

 彼の名はディズイヴ・ループ。ディーナの父親であり、ディルの育て親でもある。

 とはいえ、こうして顔を合わせるのは久しぶりのことだ。軍に所属している彼は家を空けることも多かったし、ディーナとともに城へと居を移してからはもうずっとあの家には戻っていない。

 まさかこんな形で久方の再会をとげることになるとは考えもしていなかった。

「なにはともあれ、だ。お前が無事で良かった」

 ティズイヴはくしゃりと顔をゆがめて、傷が刻まれた壮年の武人に似つかわしくない笑顔をうかべた。昔から変わることのない笑顔が妙にくすぐたいような気持ちにさせる。

 しかし、それに流されていけない。あの危機的状況を脱出できたのは彼のおかげであるが、余りにもタイミングが良すぎる。

「……良くない。どうしてお前がこんなところにいるんだ。何故俺を助けた」

 彼はディーナの父親ではあるが、なにより軍人なのだ。軍とハンターとの関係は剣呑な状態であるうえ、世界自体が不安定であるこの状況だ。軍の最前線である本部に席を置く彼がこんな辺鄙な雪山に赴いて、偶然にもこちらの危機に居合わせるなんてことがあり得るだろうか。

 敵も味方もわからない。見知った相手であれ、今はもう信用すべきではないのだ。

 ディルはティズイヴから距離をとって、じっと彼を睨む。

「どうしたもこうしたもないさ」

 ティズイヴは微かに笑って、こちらへと手を伸ばす。

「息子のピンチを救うのは親としてのつとめだろう」

 身構えたディルの頭に、その掌がぽんと触れた。虚を突かれたディルは目を丸くして、ティズイヴを見上げた。

「大体の事情はレオから聞いてる。大変だったな」

 大きな掌の優しい温もり。慈愛に満ちた柔らかな笑顔と言葉。

 そこにあるのは一人の軍人ではなく、一人の父親の姿だった。


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