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ハロー・ワールド8

「それは、あなたたちに『禍罪』の力が及ばないよう守りの加護をつけていたからよ。ハンターとしてこの城に来たとき、身体に刻印を刻んだでしょう? それは仲間の印であると同時に、歪みの影響から守る役目を果たす術式でもあったの。『禍罪』の影響力は非常に強い。普通の人ならすぐに感化されて、彼らを排除しようという行動をとる。そうならないように、私の力の一部を加護として移していたの」

 その言葉に、リイラは以前リサと町に出たときのことを思い出した。
 幻覚が消え、露わになった赤い少女の姿に人々の様子が一変したことを。彼らはとたんに目の色を変え、忌諱と嫌悪をむき出しにしていたではないか。思えば、それはすべてリサが『禍罪』であるがゆえのことだったのだ。
 身体に刻まれた十字の刻印。ハンターとしてこの城に迎えられた時に、レオによって施された仲間の印だ。それ以上の意味が秘められているなど、思っても見なかったことだ。
「待ってください」

 突如として、そう声を上げたのはダズだった。

「レオさんは今まですべて知っていたんですよね。リサのことも、ディルのことも。彼らが危険なものと知りながら、世界を滅ぼす脅威であることを知りながら、どうして黙っていたんです」

 見開かれた瞳は静寂に疑念を訴え、整然と放たれた言葉は糾弾を投げかける。

「依然ジャルに同じ事を問われて、あなたは彼が人間として共に在れるという希望を答えとしました。けれど、結果としてその幻想が今の事態を招いた。あなたはもっと、彼らの存在を深刻にとらえるべきだった。こうなる可能性を重く見て、脅威を事前に排除しておくこともできたのでは? むしろ、そうすべきだった。それをしなかった責任はレオさんにあるのでは?」

 ダズの言葉は、本心からのものだった。心に浮かんだ猜疑、積もりつもった憤り。
 けして間違いではない。しかし同時に、残酷でもある。
「ダズてめえ、何言ってんだよ」

「――黙っていてくれ、ジャル」

 その発言が何を意味するのか。諫めるジャルの視線を振り切って、ダズはじっとレオを見据えた。その口が応えを放つのを待つように。

「その通りだな」

 レオはただ頷いた。
 
「全てを語らなかった。全てを知りながら、甘い幻想を抱き、為すべき責務を怠った。ダズの言うことは間違いでははい。責任は俺にある」
 ダズの言葉を受け留めるように、レオは瞳をそっと閉じる。
 どんな非難を浴びせられようと。それはすべて正当なものだ。否定することはできなかった。結果として、己の成した選択は悲劇を招いた。回避する道を知りながらも、それを避けてきたことも否定することはできない。
 
「私はそうは思いません」
 
 明瞭たる声が放たれる。
 
「私にとって、ディルもリサも大切な仲間です。それは何があっても変わりません。そう思えるのは一緒に戦って、一緒に過ごしてきた日々が在るから。レオさんがくれた時間のおかげです。だから、私はそれを――思い出をただの幻想だったなんて否定したくはない」
 声はディーナのものだった。
 握りしめた掌に込められた強い力が、彼女の想いを物語る。
「俺だってそうだ」

 ジャルもまた大きく頷く。

「兵器だの禍罪だの、よくわかんねえし関係ねえ。てめえはてめえだ。そうだ、何も変わんねえよ。これまでの時間は変わんねえし、仲間って事実も変わんねえ。それで良いんだよ。細かいことをうだうだ気にしてんじゃねえよ。真面眼鏡が」

「――はい。完全に安心できるとは言い切れませんが、私もお二人と同意見です。責任の所在を問うてもどうしようもありませんし、今は過ぎたことを嘆くのではなくこれからどうするかが肝心なのではないでしょうか。ですからダズ、今のところはどうか抑えてください」

 リイラも賛同し、三人の視線が一斉にダズへと注ぐ。


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