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ハロー・ワールド4


「みんな。集まってくれてありがとう」
 しばらくして、レオの部屋に皆が集められた。
 自らを臨む面差しを前に、レオが恭しく改まる。トレードマークの帽子を脱いでいるせいか、いつもよりもその顔立ちは引き締まって別人のように精悍にみえる。
 どっしりと横たわるのは緊迫した空気だった。皆一様に口をつぐんで、表情を強ばらせている。この場所に集められたことが何を意味するのか理解しているのだろう。
 激しい戦いから帰還して、久方ぶりに集った仲間たち。しかし、互いの無事を手放しで喜ぶことはできなかった。今やもう、余りに多くのことが変わってしまったのだから。
 
「レオさん、彼に危険がないことは確かめたんですよね」
 まず言葉を放ったのはダズだった。
 冴えきった瞳を疲れの滲む瞼で縁取った彼は、この場の誰よりも切迫した空気を纏っていた。その理由は、彼が放った言葉が物語っていた。
「ああ。大丈夫。彼は変わらず、俺たちの仲間だよ」

「そうですか」

 うなずいたダズはちらりと視線をディルに向けて、それきり目を開わせようとはしなかった。
 言葉にせずとも伝わる警戒心。
 当然のことだと思いながらも、言い表せぬ窮屈さをディルは感じた。ダズだけではない。他の面々も口には出さないものの、纏う空気はどこかよそよそしい。ここには明白に引かれた境界線がある。人間とそうでないもの。それは差異。己の存在は彼らにとって、排斥すべき異質なのだ。
「約束通り話してくださるんですよね。レオさんの知っているすべてを」

 リイラが控えめな口調で、しかしはっきりと問う。彼女は比較的落ち着いているようで、いつもとさほど様子は変わらない。

「ああ、約束したとおりだ」

 レオは頷く。
 
「ディルが目覚めたら全てを話す。レオさんは、そう私たちに約束してくれたの。あまりにも、いろんな事が起きたから」
 事情を知らないディルのために、ディーナが耳打つ。
 レオは全てを知っていた。ディルがネオによって造られた兵器であるということも、その危険性も。
 知っていながら、それは今まで隠されてきた。
 その秘密が世界を脅かすことになった今、彼は話さなければならないのだ。ここに集められた仲間たちは、それを聞く権利がある。
「それじゃあ、何から話そうか」

 ゆっくりとレオは語り始める。
 緊迫した空気に似つかわしくない、穏やかな声色が室内に響く。

 ――――かつて、この世界には神様がいた。
 神様は世界を描き、命を創造し、育んだ。
 そうして多くの命がこの世界に生まれた。それはやがて知識を得、文明を築き、大いなる豊穣が世界に満ちた。
 神様は、世界がよりすばらしい実りをもたらすように自らの力を人々に分け与えた。神より賜ったその力で、人間はより優れた文明を生み出し、世界は永きにわたる繁栄の時代へと突入していく。大いなる力を与えた神を人々は信仰し、その祈りでもって神はあまたの奇跡をもたらした。そうやって世界は栄華を極め、争いのない平和で幸福な日々が何千年も続いた。
 しかし、その繁栄も永くは続かない。雲が太陽の光を遮るように、栄光の世に翳りが差した。
 その引き金は人間だった。
 身に余る力に、いつしか人々は驕り。神への信仰を忘れ、自らが世界の王であるかのように振る舞うようになった。自然への敬愛を捨て、世界の全てを支配せんと。欲に溺れ、力を求めた。
 その結果、豊かな土壌は枯れ果て、多くの生命が滅んでいった。世界のバランスは崩れ、ゆるやかに衰退への歩みを早めていく。それでも人は気付くことなく、砂上の楼閣で絢爛に溺れ続けた。



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