人形の夢と目醒め4
相手の力を利用するように、突如として刀身を寝かせるように手首を返す。ぶつかり合っていた力が流され、前のめりに体制を崩したレッドに隙が生まれる。
レオは自身の刃を相手の刀身を伝うように滑らせると。その流れのままに一閃。
反射的に、レッドは剣の角度を変えることで攻撃をいなす。
さらにそれを上回る速さでレオは一度剣を引き、回転を加えて連撃を見舞う。
「ぐ、う……!」
ざん、勢いよく振り下ろされた剣閃はレッドの腕ごとその刃を斬り伏せた。
うめき声を上げるレッド。
表情を変えぬまま、レオは無防備になった相手へとさらなる追撃を繰り出した。喉元を切り裂く、容赦のない軌道。
キィン。
再び剣と剣がぶつかり合う音。
残った方の片腕には、先ほどまで存在していなかった二本目の剣がいつの間にか握られていた。容赦なくその命を刈り取る一撃は間一髪で防がれてしまう。
しかし、レッドが利き腕を失ったことで形勢は一気レオへと傾く。
舞踏のように鮮やかに、流れるような剣技。優雅でありながら、圧倒的な力。
軽快なステップで小刻みに惑わすような軌跡をきざむと、くるりとその身を翻し、回転を加えた一閃。遠心力と体重の乗った重い一撃は片腕のレッドを軽々と打ち負かす。バランスを失い脇が開いたその隙をレオは見逃さない。再び、一閃。瞬く間に、残っていた左腕が宙へと飛び上がる。
息もつかせぬ鮮やかさで、あっという間にレッドは武器を握る手段を失う。
「……!」
リサはその気迫に気圧され、呆然とその激闘を眺めていた。
舞い上がった剣が、回転し軌跡を描きながら地面へと突き刺さる。鮮やかな勝利だった。為す術をなくしたレッドはゆっくりと膝を突く。
「ふ、はは……」
その口から漏れだしたのは降伏ではなく、不適な笑み。
「さすがは神に選ばれし『王』。力を制限されていてもなお、こうも圧倒的とは。恐れ入ったよ」
その乾いた声には耳を傾けず、レオはくるりときびすを返して座り込んだリサの方へ歩み寄る。
その姿に、リサの心臓はどきりと高鳴る。
凛とした品格すら感じさせる金色の髪は艶めかしい赤色に濡れ、畏敬の美しさを放っていた。それは、普段彼がみせるおどけ笑顔とはかけ離れていて、リサは思わずその身を震わせる。
そこ居るのは確かにレオだ。しかし、いつも側にいた彼とは全くの別人なように思えた。初めて見る姿に抱かれる恐怖。
しかし、その感情はすぐに払われる。
もう大丈夫。レオはゆっくりと、リサの前に掌を差し伸べた。
「帰ろう、リサ」
木漏れ日にそそぐ柔らかな日差しのような、やさしい眼差し。
そこにあったはいつもの微笑みだった。
あたたかくて、まぶしくて、自分のすべてを包み込んでくれる。
レオだ。ここにいるのは間違いない。自分の知っているレオなのだ。
――来て、くれた。
「レオ……」
手を伸ばせば触れられる。そんな距離にある、温かな世界。
この手を取れば戻れるのだ。
戻っていいと、言ってくれているのだ。
リサはそっと、差し伸べられた光に触れようとその手を伸ばす。
「その手を取ってはいけないよ」
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