人形の夢と目醒め6
「――くっ」
剣閃の流れを見定めると、手にした刃でひとつずつ払い、攻撃をいなしていく。しかしその勢いは衰えることはなく、激しさを増してゆく。
「リサッ」
斬られたはずの腕が、身体から離れ踊る。肉体の可動範囲にとらわれない変幻自在の攻撃は予測が難しく、少しでも気を抜けば容易く攻撃を許してしまう。
防戦一方のレオはリサに近づくことすらできない。
そうしている間に、レッドが再びリサの元へ近づいていた。
「判っただろう、リサ。あの男は君を殺す、君の敵だ。今まで君の心を安らげ、信じさせていた言葉は全て偽り。愚かにも純粋な君を騙し、懐柔し、味方であると信頼させたところで、その心を踏みにじり、絶望の中裁きを下す。その非道が神のやり方だ。可哀想に」
レッドの言葉が真っ白になったリサの脳裏を染め上げていく。
――もう、何を信じていいのか判らない。
信じていたことも、かけがえないと思っていた暖かい場所も、すべて偽り?
「もう一つ、本当のことを教えてあげよう」
悪戯に、涼しい声で紡がれようとするレッドの言葉を遮る者はだれもいない。
「我々『禍罪』は世界の歪みから生まれる。つまり、誰かが産んだ世界の歪み、その罪を代わりに背負って生まれてきたのが『禍罪』だといえる。そして、リサ。君が背負わされた罪、君の不幸の何よりの元凶がそこの男だと言ったら。君はどうする?」
「レオが……?」
「そう。『王』である彼が犯した大罪。その罪が君を誰よりも孤独にしたのだ。それ故にレオは君を裁かなければならない。己が罪の清算をするために。だからレオは君に近づいた。その結果、君は偽りの情愛に弄ばれ、それの果てに今、絶望に身を裂かれている。哀れなことだ」
いままで絶対的でゆるぎなかったものが、ぐらぐらと揺らいでいく。
その言葉を信じたくはなかった。けれど、それが真実であるという確信が何よりも心を支配していた。
だからこそ、酷く苦しい。
くるしくて、かなしくて、息が出来ない。
すべて、否定したい。
信じていた者がすべて嘘だったなら、はじめから何もなかった方がよかった。
偽りの温もりなら、知らない方がよかった。
リサはゆっくり、光の柱へと手を伸ばす。
頬を何かが伝う感覚。
それすら判らなくなって、はじけた衝動に身を任せた。
――ぜんぶ、壊れてしまえ。
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