移ろいゆく日常5
見知らぬふたりの人間の存在に気付いたのか、少しばかり村がざわめきはじめる。人々は興味深げに、村の中に通る道を歩く三人を横目で見ている。
その視線を鬱陶しく感じながら、ディルは先を歩くベルトの姿を追う。
初めてみる村の景色が通り過ぎていく、横目で見る村人たちの日常には何の緊張感も感じられない。村の周りで事件が起きているとはとても思いがたい。ただ村人が呑気なだけだろうか。小さく息を吐く。
村の中心を通る道を少し歩くと、目の前に古びた大きな屋敷が見えてくる。
年季の入ったその屋敷は他の民家とは一風違った雰囲気を放っていて、一目見て村長の家だということが分かった。
「ここが村長の家です」
「大きい家だね……。かなり古そう。それに見たことない構造だわ」
木でつくられた骨組みに、土壁、藁づくりの屋根と、現代の発展した建築技術とは異なる技術で作られたその屋敷に、ディーナは興味を示している。
見渡すと周りの建物の中にも一般的な造りのもののなかに同様の造りのものが混じっている。
「築80年くらいはしてると思うよ。それと、この村では隣国の建築文化が混ざった特殊な建造物がおおいんだ」
「そうなんだ。ってことは、これはベルザークの文化ってこと?」
「うん。かなり昔の文化だけどね」
「すごい。ベルザークの文化って、見るの初めて!」
ベルザークは、この国ザルカンタの隣国に位置している。
その文化はザルカンタとは異なる特殊なものが多く、自然のものを生かしたものが多い。
「もういいだろ、早く村長とやらに会いにいくぞ」
あいにくこの村の文化様式の話には興味はない。早く用事をすませてこの村から立ち去りたい。
ディルはこのまま放っておくといつまでも続きそうなふたりの話を遮ると、中へ入ることを促す。
「あ、そうだね。昨日から待たせちゃってるわけだし、早く行かなきゃだった」
はっとするディーナ。その脇でベルトは若干不満そうに表情を歪ませている。
そのことを別段気にするでもなく、ディルは視線を家の戸へと向ける。
「それじゃあ、ベルト君。案内ありがとう」
「いえ。じゃあ、俺は外で待ってるんで終わったら声かけてくださいね」
ベルトへと軽く礼を告げると、二人は屋敷の中へと入っていった。
その様子を見届けて、ベルトは村長の屋敷に背を向ける。
――それにしても、もう少し感じ良くしてくれてもいいんじゃないかな。
ひとり心中不満を嘆きながら、とこかで時間をつぶそうと歩きはじめた。
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