人形の夢と目醒め3
◆
天空へとまっすぐ伸びる光の柱。
様々な色の光を折り重ねて生み出された眩いばかりの白い色。
光の中にたたずむ、真っ赤な罪が手招く。
伸ばされた手を取れば、救いが待っている――?
そんなの、間違っている。
リサの答えはもう決まっているのだ。その手は取らない。
誰にも分かち合うことができなかった孤独を、悟られまいと押し隠してきた苦しみを解ってくれる。鋭い棘がからみつく茨の世界を共に歩むことができる。欲しくて欲しくてたまらなかった救いとなり得る存在。それこそが、レッドという男なのだろう。
しかし、この手を取って進んでしまえばもう二度と大切な者には逢えなくなる。
ひだまりのような金色の笑顔。屈託なく笑う優しい声。まっすぐに自分と向き合ってくれる仲間たち。
離れて、気付く。大切だったあの場所。
そこに戻れなくなる方が、自分の運命を受け入れることよりもずっと怖い。
「さあ」
逃すまい。レッド腕がリサへと伸ばされる。
捕まるわけにはいかない。振り払って逃げようとするリサ。しかしそれよりも伸ばされる腕の速さが勝る。絡みつく茨は少女を運命から逃さない。
「や……っ、はなして!」
「何故恐れる。言っただろう。私こそ救いの道であると」
「い、や……!」
必死に抵抗するも、非力なリサではレッドの力には及ばない。
「この光に触れて願うだけでいい。何も難しいことはない」
「――っ」
レッドは無理矢理にでもリサの腕を掴んで、光の柱に触れさせようとする。
どんなに足掻いても、リサに為す術はない。
――嫌だ。
少女の瞳に涙が浮かぶ。
「その手を離してもらおうか」
声が聞こえた。
その瞬間、諦観に追いつめられた世界に光が射したようだった。
その声が誰のものか、瞬間的にわかる。とても懐かしく大切な声。
突如、身体が浮きあがる感覚をリサが襲った。後方へと強く引かれる引力。
何者かによって突き飛ばされたのだと理解したと同時に、地面に打ち付けられた衝撃が臀部に流れる。
キィン――
金属のぶつかり合う高い音が響いた。
「……貴様ッ」
レッドの低い声が唸る。
突如降ってきた斬撃を手にした刃で受け止めた彼は、目の前に現れた男を恨めしげに睨んだ。
視界に花が咲いたようだった。ふわりと揺れるやわらかな黄金色。それをすっぽりと覆い隠す、鮮やかな色彩のシルクハット。陰に隠れた表情はよく見えない。それでもはっきりとわかる、鋭い眼光。
「レオ……!」
思わず、リサはその名をつぶやいていた。
どうして彼がここに。そんな疑問が浮かんだのはわずか一瞬のこと。それ以上に心の底からわき上がる安心感が、痛みや不安、全ての疑念を打ち消していく。
リサの表情が安堵に綻んだ。
レオは静かにレッドを見据えていた。金と紅。二つの色が交錯する。
重なり合った二つの刃。ぶつかり合った力と力が拮抗していた。
込められた力に互いの刀身が震える。その時間は永遠にすら思える刹那。にらみ合った両者の沈黙はレオによって先に破られる。
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