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廻る世界、揺らぐ月13

「リサ、君ならばこの楔を破壊することができるはずだ。封印を破壊し、神の支配から運命を解き放つことができる。君しかいない。それが、君に与えられた『罪』の意味なのだ」

 再びレッドはリサの手を引く。
 彼女の紅蓮の瞳に、まっすぐと延びる光の線が映し出された。
 痛いくらい、心臓が脈を速めていく。呼吸の仕方を忘れそうになる。

「でき、ない! そんなこと、できないよ」
 
 リサは必死にレッドを拒み、首を横振った。
 
 焼けただれたレッドの掌がリサへと伸ばされる。

「まだ、そんなことを言うのか」

 炎のように燃える瞳が哀れみと侮蔑を宿した。
 レッドの瞳は、すでに迷いを捨て全てを燃やし尽くす覚悟を滾らせていた。燃え上がる炎の前に、未だに燻る少女は愚かしく映るのだろう。
 『禍罪』を同じように背負ってきた彼は、自分と同じ苦しみ、否、それ以上の苦しみの中で悲しみと怒り、絶望を繰り返しながら今まで生き抜いてきたのだ。
 彼の想いは痛いほどにわかる。そして同じように、自分の苦しみを彼はわかってくれる。こんな存在は、きっと世界の何処にもいない。 
 それでも――。

「あたしは、この世界が大切だから。あたしの、大嫌いなこの赤を。綺麗だと言ってくれる人がいるこの世界が、大好きだから。だから、できない。たとえ世界に殺されようと、絶望のまま死ぬことになろうと。あたしはこの世界を壊すなんてことはできない!」

 リサは思い切りの力を込めてレッドの手を振り払うと、しっかりと彼と対峙した。
 ――そうだ。これが、あたしの答え。あたしは、この世界が大切なんだ。
 はっきりとわかった。レッドと同じ道は歩まない。自分の道を進むこと。それが彼女の決めた意志。

「フ……」

 レッドの口角が歪んだ。

「……君はあのとき、レオではなく私を選んだ。それは、呪われし運命を背負う同胞を無意識に君が求めていたからだ。私はそれに応えよう。君の救いとなろう。奴は、レオは君の救いには成り得ない。」

「……何を言っているの?」

 一歩、後ずさりながら。リサの身体が小さく震えた。

「私だけが、君の痛みを理解できる。共に救われる道を歩めるのだ。君は封印を壊すことで、世界が混沌に包まれ破壊の道を辿ることを危惧しているのだね。大丈夫、そんなことにはならない。むしろ、その逆だ。神の定めを往くだけだった世界を新たなステージに導く、不幸などない、すべての命が平等に幸せになれる世界を築くのだよ。それは破壊ではない。新たなる創造」

 さあ。
 何度でも、伸ばされる掌。
 逃げることはできないと、許されないと言わんばかりに。

「この手を取れ、リサ。私の言葉を。同じ罪を、痛みを背負う私こそ、君が信じるべき救いの道だ」


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