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廻る世界、揺らぐ月4

「私たちがいるザルカンタと、敵対しているベルザークのことね」

 ディーナがうなずく。

「ザルカンタは太陽を、ベルザークは月を。それぞれが司っているのよ。それぞれの国の王が、神様から賜った力で世界の循環を保ち永き繁栄を守る。それが、この世界の正しいあり方なの」

「だけどよお、メルの説明だと今みたいにザルカンタとベルザークが対立してるのっておかしくねえか? 二国が仲良くその世界の循環とやらを守ってねえと、うまいこといかないんじゃねえの?」

「ジャルの言うとおりよ。本来ならば二国は手を取り合って、共に世界に尽くさなければならないはずなの。今みたいに対立の気運が高まって、お互いを敵視している状況では世界のバランスはうまく保たれない。こんなことは、あってはならないことなのに。世界は今、大きな歪みの中にあるの」
 
 メルベルは手のひらに作り出した世界に巡る光の輪をいびつな形に変えていく。太陽がまばゆい輝きを放つ、その一方で月の光は陰り。きらめく光の流れは淀み、滞っていく。

「世界の循環はもともと不規則的で、その時の人の動きや精神の揺れ動きによって大きく変わるものなの。たとえばどちらかの国で疫病が蔓延したり、争いが起こって多くの命が失われればそれだけで巡る力に偏りが生まれる。そうしてバランスを失った世界に起こる現象が、今起こっている月食や日食なの。この塔はかつて同じように月食が起こった際に、太陽の国の民が月に祈りを捧げる儀式を行っていた名残なのよ」

 祈りによって月の力が強まれば、世界の均衡は再び取り戻される。
 メルベルの手のひらで月が再び輝きだした。

「だけど今、月に祈りを捧げる王は居ない。崩れたバランスを保つ働きが失われれば、月は太陽に呑まれてしまう。そうなってしまえば、世界の歪みは大きなものになる。世界が不安定になるその瞬間を敵は狙っている。だから、月が完全に消え去る前にディルを助け出さなくてはならないの」

 メルベルは塔の頂上を見上げる。
 彼女の話を聞いている間に、最上階が近づいていた。

「難しい話はよくわからねえが、とにかくこのまま急ぐしかねえってことだな! 気合い入れんぞ!」

 発破と共に奮い立つジャルが階段を蹴る力を強めた。
 皆も一様に、走るスピードを上げていく。
 円形にくり抜かれた塔の壁から、夜の空がみえる。月は既に三日月、頼りない光が雲間に浮かんでいる。
 
 急がなくては。
 それぞれ抱くの胸の内に、焦燥が芽生え始めた。
 そんな彼らの行く手を、砕かれたガラスの音が阻む。

「何!?」

 先陣を切っていたメルベルが動きを止めた。
 通路のガラスを突き破って現れたのは、数十の猛獣の群だった。
 ほどんどのものがその姿に見覚えがあった。以前各々が任務で遭遇した、奇妙な獣たち。

「邪魔をしないで!」

 ディーナは叫び、銃を構える。両の手に備えた銃口から放たれた弾丸が猛獣のこめかみを正確に穿つ。
 しかし、それが意味を持たないことを彼女の記憶は語る。血を流し倒れた猛獣はその傷をすぐに修復させ、再び咆哮を上げる。
 
「やっぱり、コアをもっているのか……」

 猛獣の動きを氷で封じて、ダズはぎりと歯を食いしばる。

「コアを完全に破壊することは難しいわ。ある程度動きを封じて先に進むことに専念しましょう!」

 戦うことのできないメルベルはリイラの後ろに隠れるようにして叫ぶ。
 倒すことのできない相手に時間をとられている暇はない。彼女の言葉の通りに頭や手足を狙い、動きを止めてから再生までのわずかな時間の隙に先へと急ぐ。


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